第6話 仲間
「というかあれだな、最初不可能だと思ってた事も、契りを重ねてくと割となんとかなるよな」
入り口こそ、一見さんお断りみたいな会員制バーのような雰囲気を醸し出しつつ、しかし火の精霊との契りを1回でもしてしまえば世界は変わる。
目下環境は世知辛さで構成されているが、地の精霊と契りを結んだ俺たちなら不可能はない。
「全てはモーバ殿の計算によるものでござるな?」
「そうなのか、モーバ」
「流石、モーバさん」
何故か村正に習ってジャスミンや陸ルートが絶賛してくる。
しかし全員が全員賛同はしてこないのがこのメンバーが寄せ集めであるが故だ。
って言うか賛同してくる方がおかしいからな?
要は煽りだ、こんなもん。
ジャスミンに至っては今回リーダーをやらなくて良いから全部俺に丸投げしてるのだ。
陸ルートはよく分からん。レムリアに行ってより感情が希薄になりやがった。
【しかしこのメンツでも攻略できるもんなんだな】
【最初こそ物理炎上で見てらんなかったけど】
【そこで意外なパスですよ】
【|◉〻◉)じー】
【あ、まだ監視者が】
「つっても、もう一回火の精霊を見つけんことにはロストもあり得る。俺のミラージュもストックが切れそうだ。APはまだ持つがな」
パスカルが眼鏡の位置を直しながら意見してくる。
「だな、このフィールドはドロップ品が地の精霊と契りを交わしてようやく目視することができるクソ仕様だ。俺のようなドロップ品ジャンキーにはどれを優先させるかは悩むが、死んだら元も子もない。俺もパスカルの案に一票投じるぜ」
「そうだな。村正、火の精霊の位置はわかるか? 嗅覚的なやつで」
「わからぬ!!!!!!!」
「よーし、パスカル、今からお前がこのパーティの要だ。俺はコイツを負ぶっていくから詳しい位置出しを頼むぜぇ」
「了解、俺の立ち位置はそこだもんな。と、このルートを真っ直ぐだ。迂回する方が安全だが、さっき水の契りを重ねたから大丈夫だろう」
先程倒した水の精霊。水の契りは妖精誘引。
これは道中にそれを用いたギミックかなんかあるか?
それ以前にEPが30しかないのがネックだな。
そのための人数作戦だが……
ゴォオオオオ……
その場所は切り立った崖の上だった。
マグマの海が滝のように流れ、その先には通路らしきものが見えるが、まさかここを越えるのか?
【無理ゲーが過ぎんだろ】
【ちょ、パスカル氏道間違えた?】
【いや、よく見ろ。画面端で魚類が寒中水泳ならぬ熱帯マグマ泳してる】
【|◉〻◉)ノ いえーい、みんな見てるー?】
【画面外からの圧力が、強い】
【お助けキャラならぬお煽りキャラと聞いて】
【しかも気持ちよさそうに背泳ぎして……背泳ぎ!?】
【自分でボケて自分で突っ込むとはお主、やるな?】
【平泳ぎしてるのもいるぞ?】
【団体さんかな?】
【全員カメラ目線なの草なんだよ】
外野は無視して妖精吸引。
パスカルの指示のもと、赤く光った場所に妖精吸引を施すと、マグマが固まって道になった。
どうやらここは水の気配が近くに……まあ魚類はいたが近くにあったんだろう。
マグマが固まった上を歩いて向こう岸に渡る最中、固まったマグマに巻き込まれた魚類がSOSを俺たちに向かって投げかけていたのを無視する。
いや、お前自分から巻き込まれにいかなかったか?
「|◉〻◉)タスケテー、タスケテー」
「モーバ殿、可哀想でござるよ。助けてやらぬか?」
村正が同情を誘われたのか演技に引っかかる。
あのわざとらしい顔を見ろ。絶対ここで足止めするのが目的だぞ?
しかし村正を悲しませるとオヤジさんが殴り込みにくるからなぁ。
全面的にコイツが悪くても、親は子供の言い分を信じる厄介な生き物だ。
ここは俺が年上としての貫禄を見せつけてやるかな。
「パスカル、時間制限はあるか?」
「あと30分」
「あるんじゃねぇかよ! 急げ村正!!」
「ガッテン!!!!!!!」
まるでミサイルのように俺が抱えた小脇から魚類に向けて発射された村正。
手を引っ張ったら、ぬるんと中身が出て脱皮する魚類。
肌をツヤツヤさせたあと、なんかついてくることになった。
いや、これ以上のサポートは要らないんだが?
タダでさえアキカゼさんの影がチラつくし、この魚類はどこまで信用して良いのやら。
30分後。
魚類がまたアクシデントを起こした。
どうやら目的の場所、炎の精霊の眠る場所に、滑って転んで海の生き物たちを詰め合わせたグロテスクな置物を割ってぶちまけたそうだ。
誰の目から見ても突然そんなものを取り出した時点で怪しいとは思っていた。
どうしましょうって顔をしてるが100%悪意のある顔。
コイツ、もしかしなくても村正以上のトラブルメイカーだな?
「おら、ボーッとしてねぇでお前も立って戦うんだよ」
「|◉〻◉)エルフさん……」
「種族名で言うな。俺はモーバ、全プレイヤーのモブ代表のモーバ様だ! 覚えときな、リリー!」
「|◉〻◉)トゥンク!」
「あー、あー! ダメでござるぞ! モーバ殿は拙者と添い遂げるのでござるからな!」
「添い遂げねぇよ!」
何やら村正が魚類に対抗心を抱いて罵り合いに発展する。
EPはさっきの妖精誘引で使い果たしちまったし、どうやらお相手は暴走モード。一回アキカゼさんに奢ってもらった火の精霊よりも格上と来てる。
だが、俺たちにはもってこいの画面映えする相手だ。
同時接続数も増えてきた。さぁて、乗り越えるぜ。
この窮地。
「|◉〻◉)ふっふっふ、頼られてしまった以上、僕も本気を出さざるを得ませんね!」
ゆらり、と魚類が槍術の達人の如き動きで三又の槍を構える。
コイツの生態はギャグに特化してるように見えて、案外戦えることを知っている。
邪魔さえしてくれなけりゃ良いや。
「モーバ殿、某にもご指示を!」
忠義に熱い忍者みたいに、いつも落ち着きのない村正が何故か真剣な目で見てくる。
俺も真面目に取り組まなければならんだろう。
「いつも通り、矢を放つ場所に斬りかかれ。骨は拾ってやる。以上!」
「御意!」
「奴さん、仕掛けてくるぜ?」
パスカルの声。その言葉通り、炎の精霊は攻撃モーションに入っていた。
「ならばこちらから先制攻撃ってな! 炎相手ならアトランティス製の冷凍ビームは効くだろう、ファイア!」
続くオメガキャノン。
冷凍ビームなのに掛け声はファイアでいいのだろうかと野暮なツッコミは入れない。
「モーバ、上空からナビゲートフェアリーの共鳴大!」
「総員、退避ぃいいいい!」
ジャスミンからの指摘に俺たちは蜘蛛の子を散らすように一目散にその場から散った。
炎の精霊の攻撃は殴りかかるモーションとは別に周囲のマグマを自在に操るとんでも攻撃だったのだ!
「|◉〻◉)効きません! チェストォオオオオオ!」
その中で一匹だけ勇敢に立ち向かう魚類は、マグマをそれこそ滝登りする様に足をバタつかせてその構えた三又の槍で炎の精霊の喉元を貫いた!
「やったか!?」
おいバカやめろ。
陸ルートの死亡フラグが早くも確立したと同時に地響きが起こる。足元の岩盤が割れ、その隙間からマグマが噴き出す演出の後、処理のメッセージが俺たちの元に届いた。
いや、勝ったのかよ。
こうして俺たちはマグマに対して強い耐性を得た。
何故かトラブルを引き起こしては、自己解決できるペットと共に行動を開始する。
正直上手く行き過ぎてる部分は否めなくもないが、実績さえ手に入れちまえばこっちのもんだぜ!
あとは野となれ山となれ、だ!
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