第7話 取引

「で、次どこ向かうんだっけ?」



 マグマに対して余裕ができたからか、道中の会話はお気楽なものだ。

 どこに行く? と言うよりかはどの精霊と契る? みたいなノリだ。

 既にフィールドのマップは大御所が全容を明らかにしてるし、なんだったら精霊のありかも解明済み。

 あとはどうやって攻略をすれば楽に回るかだな。



「|◉〻◉)モッシャモッシャ」


「リリー殿、何を食べてるでござるか?」


「⌒〻⌒)気になりますぅ?」


「気になるでござる!」



 俺の歩くすぐ横で兎と魚が何やらコントをしている。

 徒歩中の食事は配信ではマナーの悪い行為として取られるが、この魚類は存在自体がギャグそのものだ。

 気にしてたって仕方ない。

 すぐにパスカルに意識を向けて、今後どこに行くかを相談する。



「パスカル、これどこ向かってるんだ?」



 なんとなく歩き出したのは俺で、パスカルに言わせて貰えば無計画に歩いてる。近くに精霊はいるか? という意味で聞いたら、渋面を寄越された。



「モーバ、お前はそんな無計画な所までアキカゼさんに似せなくたっていいんだぞ?」



 そんなつもりはなかったんだが、確かにあの人も無計画だったなと思い出す。



「リーダー、次こそ地精霊だ。大地でもいいぞ!」


「あー、はいはい見つけたらな?」


「おっし! 言質とったかんな!」



 オメガキャノンは当初の目的を忘れたかのような語り口。

 いや、最初からドロップ品目当てだったかこいつは。

 地下世界のドロップ品ってあんまり表に出てこないからな。

 全部大御所が掻っ攫っちまう。

 ならこれを機会に手に入れたいって生産職の気持ちもわからんでもない。あいつが真っ当な生産職かはさておき。


 実際聖霊が見えるようになる利点も大きいし、4~5まで上げてもいいか。

 今現在精霊との契りは、


 地(視覚+)  _1

 水(妖精吸引) _1

 火(マグマ耐性)_3

 風(スキル+) _0

 音(聴覚+)  _0

 

 こんな感じ。EPはトータル50。

 こいつは精霊と契った回数で分母が上がる仕組みだ。

 ここでやる事は一つ。

 精霊と契って契って契りまくれってこった。


 さっき30使ったから残りは20だが、このフィールドで歩いてるだけで自然回復するっぽい。今見たら22まで回復してる。

 空みたいに食うだけで回復できるアイテムがあれば良いんだけどさ。



「モーバ殿! リリー殿が共食いを!」



 そんなことを考えてると、暴走特急村正が俺の胸に飛び込んできた。顔を上げれば瞳に涙を浮かべている。

 あの魚類のことはまともに取り上げるだけ無駄だから諦めろ。


 ヨシヨシと頭を撫でてやると、ふにゃっとさっきまでの悲しさが全部吹っ飛んだような腑抜けた顔をする。

 子供の扱いなら任せろ。うちにも歳の離れた妹(11)がいるからな。

 甘えたい年頃なのだろう。ちょっと抱っこして背中さすってやれば落ち着くもんだ。

 家族でもなけりゃ逮捕されかねない行為だが、まぁ相手が受け入れてる限り俺に正当性はついて回るもんだ。


 テンパってた村正を落ち着かせて話をよく聞けば、どうやら魚類は魚肉ソーセージ(チーズ入り)なるアイテムを食していたらしい。

 たしかに見た目が魚で、それ食ってたら共食いに見えなくもないけどさ。あいつプレイヤーだぞ?

 実際にリアルで魚だって食うだろ?

 みろ、あいつののほほんとした顔を。お前を煽って楽しむあの態度を。

 そう言い聞かせていると、村正がいつもの調子を取り戻してくる。



「そう聞くと確かに。しかしだからといってこの非道、許されざるべきか? 否!」


「取り敢えず落ち着け。リリー、あんまりコイツを揶揄って遊ぶな。一応仲間になったんだ。仲良く頼む」


「|◉〻◉)えー、これ僕が悪いんです? ただEP回復アイテム食べてただけなのにー」



 おい、今コイツなんていった?



「あるのか!? EP回復アイテムが!」


「⌒〻⌒)ニコッ」


「取り敢えず人数分頼めるか?」


「|ー〻ー)えー、さっき僕冤罪かけられてすごく悲しかったんですよ。タダじゃあげられません。悲しさを忘れさせてくれるなら、考えなくもないですけどー」



 悲しい、という振りをする魚類は塞ぎ込んではその場でうずくまり、興味を引きたいのか俺の方をチラチラと指の隙間から(水かきによって覆われてるから隙間なんてない!)覗いてくる。

 覗けてないのはこの際突っ込まないぞ!



「どうすれば良いんだ?」


「|◉〻◉)僕もモーバさんにギュッとハグされたいです」


「んな! モーバ殿、耳を貸す必要はありませんぞ! やはりこのものは邪悪! 正体を表したな悪霊め! この村正が叩き斬ってくれる! いざ尋常に勝負!」



 チャキン、と鯉口を鳴らし戦闘態勢を取る暴走兎。

 やめなさい、と俺は頭頂部にチョップを落とした。



「いや、それでEP回復出来るなら安いだろ。なんでこんな好条件に噛みつくんだよ」


「ダメでござる! そもそもEPは自然回復するものでござろう? モーバ殿はもっと自分を大切にしたほうがいいでござるよ!」


「ま、それもそうだな。今は上限が低い。でもさっきの規模の妖精吸引が必要な時は遠慮なく頼らせてもらうぜ?」


「|◉〻◉)はーい。次からは一つ手渡すごとに1ハグですけどね! 時間は10分です」


「なぁ、それ前もってやっておくことできるか? 流石に緊急時に10分拘束されるのはきつい」


「んなーー!?」



 なんにせよ、アイテムは多くもって置くに越したことはない。

 妄想兎はまた変な方向に意識を持っていかれたのか、塞ぎ込んでブツブツいってる。

 別にハグするくらい普通じゃんな?

 そう諭すと何やら村正に取っては「特別」なのだそうだ。


 大切に思ってくれるのはありがたいが、魚類とハグしたからって何か減るわけでもないし気にしすぎだと思う。

 一丁今やっとくかとハグしようとしたら、村正がこの世の終わりみたいな顔をしたので、急遽キャンセルした。


 配信中はどこで親父さんの目が光ってるかわからんからな。

 冗談だよと不安にさせた分ハグしてやると、村正はすっかり上機嫌になった。


 このくらいの子供はこんなもんで機嫌が良くなるから不思議である。

 リリーの中身も案外小さい子供だったり?

 まさかな?

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