第5話 挑む

 見せつけられてしまった歴然とした差。

 震える拳を握ることしかできない俺に、村正に手がそっと添えられた。



「モーバ殿、アキカゼ殿は強大でござるなぁ」


「ああ、如何にこの企画が無謀かわかるだろう?」



 折れかけた心に、しかしまだ諦めきれない瞳が俺を刺し貫く。

 燃え尽きてなお、消えぬ種火が如く。

 その瞳に諦めの色は残っちゃいなかった。



「しかし某のモーバ殿もあれくらいやれると信じているでござるよ?」


「そーかよ」



 だから、どこから出てくるんだよ。その自信は。

 もう折れたって良いだろうに。

 そんな弱気な心を無理やり固めて束ねて見せる村正。

 ジャスミンの旦那も、パスカルも、オメガキャノンや陸ルートまでもがこのままでは終われないという顔を俺によこして見せる。

 あーあ、俺はそんなキャラじゃないってぇのに。

 もう途中下車したいって言っても遅いぜ?


 村正の差し出した手を、俺が握り返すことで再度挑戦の道は開かれた。

 正直なんの勝算もない。

 それは最初から分かりきっていたことだ。


 だが、こんな茶番を挟んでこその突発イベント。

 アキカゼさんの配信だってよくわからない茶番が多かった。

 だからこれもありだ!


 俺たちは何事もなかった様に配信に戻った。



「はい、つーわけで。とても不思議な光景だったな! あんな光景を見られるチャンスなんてもう二度とないだろう」


【茶番乙】

【いいから攻略しろ!】

【アキカゼさんに負んぶに抱っこじゃねーか】


「あー、うるせーうるせー。どうせお前ら俺たちが失敗するの笑いに来てんだろ?」


【キレ芸は受けないよ?】

【気持ちは分からんでもないが】

【でも本気でなんだったんだ、あれ?】

【アキカゼさんも配信してなかったっぽいし】

【|◉〻◉)突発ライブだよ。僕もさっき聞いたもん】

【おかえり!】

【突発なのかよ】

【クソプロデュースで草】

【最悪の舞台じゃねーか】

【|◎〻◎)いい汗かいてきました】

【その脇で燃え尽きてた配信者が居たらしいですよ?】


「いやー、俺らの配信でしか見られない奇妙な光景だったな」


【|◉〻◉) あれ? またライブ? 今度は空?】

【リリーちゃん立て続けで大変だねー】

【幻影使いの悪いマスターで草】



 次は空か。なら俺たちに関係ないな。

 さっさと地の精霊をしばきに行く。



「よい、しょおおお!」


「行ったぞ、オメガキャノン!」


「だから見えねぇよ!」


「お前のお得意の面制圧だ。全画面にぶっ放せ!」


「っしゃあ!」



 俺たちは作戦通り、射線から逃げる様に脇道に穴を作って身を隠す。

 そこにアトランティス陣営で手にした冷凍ビームでフィールド毎精霊を凍らせる。


 が、地の精霊に対したダメージは入ってない。

 それを検知するのはジャスミンの旦那の仕事。

 ナビゲートフェアリーの反応がある方に、冷凍ビームで位置を特定させてから畳みかけるようにそれぞれの得意武器での攻撃を開始。



「陸ルート!」


「御意!」



 レムリアの器に斬撃を乗せたビームが地の精霊に吸い込まれ、肉体がズタズタに切り裂かれる。



「村正!」


「突貫!!!!!!!」



 踏み込んだ大地を後ろに置き去りにしながら縮地で距離を詰め、すれ違いざまに抜刀!

 地の精霊の胴体が泣き別れする。



「パスカル!」


「おおお!!」



 パスカルの重力操作で足場に地の精霊を縫い付ける。



「オメガキャノン、やってやれ!」


「ヒャッハーーーッ!!」



 先程の威嚇攻撃とは違い、今度は正真正銘破壊の衝撃でフィールドそのものにダメージを与えかねない砲撃が火を噴いた。



 ポップアップするシステムに、討伐を確認、それぞれ視力に+1する。

 既に情報で出てる様に、契りは+2までは全部取れるが、+3〜5に伸ばせるのは3つ。5〜8に伸ばせるのは二つ。9に伸ばせるのは一つとされている。

 攻略に関しては水の契りが9持ってるプレイヤーが一人居ると良いと聞く。

 メンバーの誰が何を持つかで話し合い、決定する。



「俺が一番余裕があるから、妖精誘引は任しとけ」


「オメガキャノン殿は一番見えてなければ困るので視力でござるか?」


「それはお前も同じだろ? 村正」


「視力は5までみんな取った方が良さげだな」


「聴力は私が取っておこう。ナビゲートフェアリーと併用して活躍の機会が見込めればいいと思う」


「じゃあ俺はマグマ耐性だな」


「それは5までみんな取ろうぜ。最悪マグマの中に逃げ込める様になりたい」


「意外と逃げ場ないもんな、精霊の攻撃」


【全ての精霊がオメガキャノンと同じ攻劇範囲だし】

【|◉〻◉)ただいまー】

【おかえりリリーちゃん】

【コンサート早くない?】

【一戦ごとにコンサート行って帰ってくる魚類が居るらしいぞ】


「|◉〻◉)ノシ はい、パスカルさん。お土産。じゃあ僕はこれで。バッハハーイ!」



 手を振りながらマグマの海に飛び込み自殺を図る魚類。

 何しにきたんだ?



【あれ? 魚の人今画面内にいなかった?】

【犬の人、何もらったの?】

【イッヌwww オオカミじゃないの? www】

【リリーちゃんマグマの海に入っていったぞ?】

【直接お土産私にきたの草なんだが】


「え、これ。ダークマターじゃねーか」


【嫌がらせか!】

【いや、空の名物でもあるダークマターは一定時間APを消費しない神アイテムだぞ?】

【優しさの塊だった】

【むしろこの配信アキカゼさん見てるだろ!】

【そのためにわざわざコンサートとか開いてんの!?】

【物好きなやっちゃな】


「お袋、もう空から撤退してるだろ。わざわざこれ受け取りに行ってくれてたのかよ。ありがとうな、魚の人!」



 どうやらあの人のお節介は俺の知らないところで秘密裏に行われてる様だ。

 何という傍迷惑な人だろうか。

 まあせいぜい利用してやればいいか。

 

 流れはこっちにきてるんだ。

 むしろこの状況さえ利用してやれ。

 きっとアキカゼさんもそう思ってのことだろうしな!

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