第97話 レジスタンスと、話し合いと、すれ違うギブアンドテイク

「お前ら裏の住人と親しいよな。貴族レジスタンスと伝手はないか」


 年季雇用兵の一人と話した。


「そりゃあありますけど、どうなさるんで?」

「会ってみたい」


「それだけで」

「ああ、殺すつもりや尋問するつもりはない」

「じゃあ、お待ち下せぇ」


 真昼間のレストランでレジスタンスと待ち合わせだ。

 こっちはフードを被って人相を分からなくしている。

 念の為姿隠しを使った年季雇用兵を3人連れっていった。

 音も立てずに向かいの席に座る女。


「あたいらに会いたいって。情報提供かい」

「場合によっては情報を流してやらんこともない」

「はっきりしない奴は嫌いだ。これだけは聞いておきたい。あんたは貴族にどんな恨みがあるんだ?」


「平民から近衛騎士になったが、ある貴族と揉めてな。10年間、嫌がらせを受けた」

「その経歴には覚えがある。アフォガート伯爵」


 相手が一人だったので正体のヒントを出してやった。


「隠すつもりじゃなかったが、よく調べている」

「ぬけぬけと。武術に対して自信があるわけだ」

「近衛兵トップの実力だったと言っておく」


「何が聞きたい」

「聞きたいというか言いたい。農民を反乱に巻き込むのはやめろ」

「無垢な農民を操っている姿は、貴族より醜悪だぞ」


「言いたい事をずけずけと。あたいらだって農民に犠牲者が出てほしいなんて思っちゃいない」

「情報公開の部分は良かった」

「あんたに褒められる筋合いはない」


「どうせ貴族を暗殺したいが上手くいかないんだよな。たまに成功しても、子供が跡を継いで元通りだ。違うか?」

「くっ」

「図星か」

「じゃあどうすれば良いんだ」


「貴族を味方につけて変革を促せば良い」

「その貴族があんたってわけだ。野心家だね。あたいらの組織を手に入れようたって、そうはいかない」


「俺の方針はいつもひとつだ。キブアンドテイク。俺は貴族の醜聞と金を渡す。あんたらはそれを広めれば良い」

「良いように使おうたってそうはいかないよ」

「無理強いはしない。人はだれしも異なるギブアンドテイクを抱えているのだからな」

「あんたは凄い人だ。それは認める。だが、貴族への憎悪なんかないだろう」

「ああ、ない。釣り合いが取れる報酬を貰えれば大抵のことには我慢できる。命をくれとか言われたら、釣り合う報酬はないけどな」

「あんたって人が分かったよ」

「世の中は仕事と見合う報酬だけだ」

「そうかい。あたいらとは合わないね。あたいらは貴族への憎悪を糧に生きている」

「残念だ。組織の名前を聞いても良いか」

「レジスタだよ。古代から続く由緒正しい組織さ」

「そんな昔からか」

「じゃあ行くよ」


 女は音も立てずに去って行った。


 魔王の魔法書にレジスタの記載がある。

 なんでも魔導師という凄腕の魔法使いの秘密結社があって、それに対抗するために作られたらしい。

 魔王の時代から続いているなんて凄いな。

 古代知識の口伝とか聞いてみたいが、現状では無理なんだろうな。

 俺は貴族らしくない貴族だが、どっぷり貴族だからな、


 レジスタとの話し合いは物別れに終わった。

 だが、貴族の醜聞情報は渡すつもりだ。

 もちろん金もだ。

 相手は嫌がるかも知れないが構うものか。

 ギブアンドテイクが釣り合わないと思ったら、醜聞を広めるのをやめれば良い。

 その時は俺も考える。

 金額を吊り上げていけそうなら吊り上げるし、別の報酬が良いなら考える。


「エクレア、身重だからもあるが、王都を歩く時は護衛は10人ほど付けろよ」

「分かっているわ。伯爵夫人ですもの。身代金目当ての人間にさらわれたら困ります」

「俺も常に護衛を引き連れていくよ」


 ほどなくして、事の発端の奴隷税は廃止された。

 ほいほいと税を作ってほいほいと廃止するなよ。

 法律を何だと思っている。


 俺は奴隷契約した貴族から醜聞を聞いて回った。

 本当かどうか分からないが、どの話も酷い。

 領主が手籠めにしたメイドを奥様が鞭で叩いて殺したとか。

 服に飲み物を引っ掛けた使用人を斬り殺しただとか。

 村を盗賊に襲わせ、女は奴隷にしただとか。


 とにかく酷いのが多い。

 レジスタはこういう被害者の関係者で構成されているのだろうな。


 デマも混じっているだろうが、裏はレジスタが取るだろう。

 そこいくと浮気や浪費癖はまともだな。

 フィーユ王女の顔が浮かんだ。

 フィーユ王女は王族で、名義上の俺の妻だ。

 浪費癖と男漁りが酷いとんでもない悪妻だがな。

 なので今は奴隷にして、開拓村においてある。


 彼女が俺を王位に導いてくれる。

 30年も経ったら、奴隷から解放してやるさ。


 その前に王位を貰ったらボーナスをやらないとな。

 別荘と豊かな土地を用意してやろう。

 俺は仕事に対しては報酬があるべきだと考える男だ。

 世の中はギブアンドテイクだ。

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