第96話 奴隷税と、反乱鎮圧と、俺の歌

 全く貴族派は次々と手を考えてくる。

 今度は奴隷税だ。

 貴族派の農地にも農奴はいる。

 奴らは脱税しまくるんだろうな。


 証拠集めを切り上げてそろそろ糾弾するか。

 だが、同盟の仕掛けが発動してない。

 これを待ってからでもいいだろう。

 やるなら徹底的にだ。

 一撃で終りに持っていきたい。


 俺は奴隷に対してこのように言うことにした。


「お前達は奴隷じゃない。30年契約の年季雇用だ」

「30年で解放してくれるんで」

「もちろんだ。だが、解放後に罪を犯せば、容赦なく罰する」


「見捨てるのか?」


 別の元奴隷が質問してきた。


「俺の領地の村人になるなら構わない。歓迎しよう。開拓した土地をくれてやっても良い」

「聞いたか。俺達が土地持ちだってよ」

「俺はここに骨を埋めるぞ。もともとやり直したかったんだ」

「子供も出来たしな。みっともねぇ所は見せられねぇ」


 奴隷で無くなるという希望は彼らを元気づけたようだ。


 徴税官が俺の領地にやってきた。


「俺の領地に奴隷は一人もいない。嘘判別に掛けたって良い」

「分かってますよ」


 この徴税官は奴隷にした奴だ。


「お前らも30年で解放してやる。奴隷じゃない年季雇用だ」

「それはありがたいことで」


 徴税官は疑いの目で見ている。

 信じなくてもいい。

 30年後には退職金も払うつもりだ。

 ギブアンドテイクだからな。


 たぶん30年も経たずに俺はこの国の王になるだろう。

 そして30年の間には俺の治世は安定するに違いない。

 アプリと使用料がある限り俺はやられん。

 金の力っていうのは案外馬鹿にできないものだ。


 徴税官は元奴隷数人に聞き取り調査して帰っていった。


 そして、事態は急展開を迎える。

 教会の資産公表制度に感銘を受けた貴族に対するレジスタンスが貴族の資産を勝手に公表したのだ。


 貴族派に限らず、俺を除く全ての貴族は火消しに必死になった。

 資産の中には奴隷も含まれている。

 とうぜん奴隷税を払ってないのも公表されている。


 各所で暴動が起こった。


「アフォガート子爵、貴殿に農民の反乱鎮圧を命じる」

「承ります」


 やりたくはないが、王族からのお達しだものな。


 俺は年季雇用兵を率いて出陣した。


「いいかお前ら、死人はなるべく出すなよ。俺は恨まれる貴族になりたくない」

「わかってまさぁ。姿隠しで近づいて、ひとりずつさらってくれば、よろしいのでしょう」

「その通りだ、行け」


 俺は捕獲された農民を前にして懐柔することにした。


「ひとり金貨1枚を与えるから、反乱など起こすな」

「貴族のいうことなど信じられるか」

「ほらよ」


 俺は縛らている縄の隙間に金貨を差し込んだ。

 農民の目が泳ぐ。

 どうしたらいいか迷っているみたいだ。


「分かった縄を解いてくれ」

「その前に魔法契約だ」

「殺されるよりましだ。やってくれ」

「【魔法契約】、二度と反乱は起こすな。縄を解いてやれ」


 農民は縄を解かれ転がった金貨を大急ぎで懐に収めた。

 そうして逃げるように去っていった。


 反乱に加わった全ての農民に同じ処置をした。

 結果、俺の名声は上がった。

 レジスタンスには俺の首に賞金を懸けたようだ。


 こんなに優しく解決したのに何が気にくわないんだ。

 レジスタンスは反乱を拡大して国の転覆を計るつもりだったのかな。

 俺のライバルってことか。

 俺も国の転覆を計っているからな。


 一度話をしてみたいものだ。


 王都に帰ると。


「アフォガート子爵、反乱討伐の功績として伯爵へ陞爵することにする」


 と言われた。

 税金がまた上がるのか。

 余裕で払えるがな。

 領地の広さからいったら辺境伯ぐらいはあるのだけどな。


「なんだ不服か?」

「いいえ、滅相もありません」


 近衛騎士から伯爵への出世か。

 英雄譚になりそうだな。

 もう歌われていたりして。

 暗殺が嫌だから、王都の酒場なんかには行けない。


「おい、酒場で俺の歌が歌われてたりするのか」


 俺は年季雇用兵を捕まえて聞いた。


「ああ、いくつもありますぜ。歌いましょうか」

「いい。そんなの聞いたらジンマシンが出そうだ」


 やっぱりあるのか。

 俺が英雄か。

 柄じゃないな。


 だが、名声はあって困るものじゃない。

 ほどほどに人気を取りながらやっていこう。

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