第95話 対策と、情報公開と、徴税官

 寄付で名声は上がったがやはり面白くない。

 そう思っていたら、富豪税の対象に貴金属や寄付も含めると通達してきた。

 そんなことだと思ったよ。

 さて、どうするか。

 内乱を起こすのは最後の手段だ。


 貴族派の上層部の税を公平に取り立てるのが一番だがどうにもならない。

 徴税官も半分は貴族派だからな、

 役人もだ。


「王族に寄付をとまかり越しました」


 取られるのなら王族へ寄付してしまえとそういうことだ。


「大儀である」


 それで寄付した目録は民に公表した。

 慌てたのは王族。

 税金を払うつもりなどなかったが、公表されると払わないわけにもいかない。

 もちろん民の意向など無視も出来る。

 だが、それは破滅への一歩を踏み出すことになる。

 税金は誰も払いたくない。

 上の方が不正しているなんて噂が立とうものなら、暴動が起こる可能性もある。


 もちろん俺は噂を積極的に流した。

 貴族派の上層部が脱税しているのも含めて。


 王族は白旗を上げた。

 法を無視するとさすがに不味いと考える人が多数でたからだ。


 民に言い訳するのに富豪税の撤廃をしないわけにはいかなくなった。

 もちろん、教会からの圧力があったのも一因だ。

 寄付も税の対象に含めるとすると教会への寄付が減る。


 教皇にアポを取って会いに行った。


「教皇様におかれましてご機嫌うるわしく」

「私達の中ではありませんか、社交辞令は要りません」


「富豪税撤廃の運動ありがとうございました」

「あれは悪法です。きちんと所得に対する税を払っているのに、その上まだ金持ちから搾り取るのはいかにも理屈に合いません。やるなら所得に対する税の利率を金をたくさん稼いでいる場合に上げれば良いのです。一定金額以上の貯蓄を認めないなど悪法もいいところです」

「ですね」


「教会にも税を払えなどという貴族が出て来て困ったものです」

「けん制なのでしょうね」

「ええ」


「徴税の仕組みを変えないといけないようですね」

「不正の温床なのは性質上致し方ないとはいえ、困ったものです」

「どうです。まずは公表するという風土を作ってみては。財産の全てを公表してしまうのです。私人としての財産など、普通はちっぽけなものです」

「なるほど。教会の膿が出せる提案ですな。私も私人としての財産などさほどありません。公表するに否はないですな」

「教会でそういう風土を作って頂ければ、私の派閥の貴族も財産を公開させます」

「そうやって、貴族の改革を推し進めるのですね」


「徴税官の方の手も追々とですね」

「ふふふっ、これは愉快だ。民が暮らしやすい方向に着実に向かっている。教会の幹部の財産公表の慣例を作ったら、私の功績は長年にわたり称えられるでしょう」

「ふふふっ」


 悪だくみが終わった。

 俺は徴税官に賄賂を渡すという手紙を書いた。


「これはこれは。今回、いろいろと貰ったからと言って手心は加えられませんぞ」


 徴税官は賄賂だけ貰って俺の意向など無視するつもりだな。

 貴族派に属しているのだから当たり前だが。


「構いませんよ。今回は顔つなぎということで。ですが、重要な場面で赤の他人だなどと言われるとこちらも傷つく。魔法契約して貰えませんか。知り合いだという証の」

「よろしいでしょう」


「では【魔法契約】」

「さっそく心づけを頂くとしましょうか」

「もちろん用意してあるよ。命令をいくつか聞いてもらおう」

「それは出来ませんな」

「承諾しろ。命令だ」


「かしこまりました。なんだ口が勝手に」

「知り合いだからな」

「騙したな。こんな魔法聞いたことがない。意に添うようにするなんて力があったら、国を征服するのも容易いじゃないか」

「国は征服するつもりだけど容易くはないな。ここで喋ったことは秘密だからな。命令だ。奴隷契約の事も秘密だ。分かったか」

「はい。くそう」

「欲の皮を突っ張らせているからそうなる」


 来た奴はもれなく奴隷契約にした。


 こんな簡単な餌にほいほいと釣られるのだから、いかに腐敗が進んでいるかだ。

 命令したのは俺から適切な税を取れということだけだ。

 貴族派のお目こぼししているのは現状維持だ。

 証拠を集めて一気に叩く算段だ。

 反乱を起こした時に大義名分とかがないといけないからな。

 民の意向なんか知った事ではないが、敵に回す必要もない。

 味方は多ければ多い程良い。


 手紙で釣られない徴税官は用心深いが真っ当なのだろう。


 用心深い奴は貴族派の命令でもほいほいと俺の所にはこないだろう。

 死ぬ可能性が高いからな。

 真っ当な奴は、無茶な税など吹っ掛けてこないから、これもまた問題ない。


 来るとしたら俺が奴隷契約した奴らだろう。

 俺から無茶な税を取れなかったのをどう貴族派に言い訳するか見物だが、口が上手い奴が多いに違いない。

 それに貴族派の勘気こうむって処刑されても心は痛まない。

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