第86話 別れと、ギブアンドテイクと、査問会

「行っちゃうのね」


 ラウニー商会の店の前に、空飛ぶ馬車を乗り付けた。

 ラウニーが店から出てきた。


「とりあえずの用事は終わったからな。商会の方は好きにやれ。ラメルの部下は何人か残す。困ったら相談すると良い」

「他に言うことはないのね」

「ないな」

「そう」


 ラウニーの目に涙が光った。


「別れなんてものは必ずくるものだ。これに対するギブアンドテイクは、良い思い出ぐらいしかない」

「分かったわ。思い出を別れの報酬として生きていくわ」


 これから、ラウニーとヘーゼル達は表向きは敵対。

 裏ではヘーゼル達はラウニーの部下として動く。

 それを維持して貰わないといけない。

 でないと偽装工作にならないからな。


 あとは、ヘーゼルとコンポ―と貴族派の長老を同盟させるだけだ。


 あと何幕も場面がありそうだ。

 俺の心はもう次への策謀へと、動き出していた。


 空飛ぶ馬車でラメルと帰りの途につく。


「あなた、帰ったら魚の臭い取りのアプリは流行らせましょう。あれは良い物です。それと計算アプリ」

「好きにやると良いさ」


 ラメルの俺に対する呼び方が、お館様からあなたに変わった。

 こうやって人間の関係も少しずつ変わっていくのだな。


 そして、夫婦は空気みたいなものになっていくのだろう。

 これに対するギブアンドテイクは愛と信頼と安心感かな。


 あまりこれに甘え過ぎると熟年離婚とかになるのだろうな。

 夫婦といえども妻にギブを与えないといけない。

 愛情もだが、お金が大事だ。


 贅沢させてやらないとな。

 そんなことぐらいしか俺には出来ない。

 もちろん子供の教育には金に糸目はつけない。

 それぐらいしかやってやれる事がないように思えた。


 魔王の魔法の手引書を読む。

 そこには恐るべきことが書いてあった。

 C言語魔法を使うには発音と意味が分かれば良いとある。


 だとすれば子供にC言語魔法を継がせられるぞ。

 我が家の秘伝としよう。

 そのうち子孫は英語の発音を失うのだろうな。

 声を出す魔道具を作る事は可能だが、俺は辞めた。

 失ったのならそれはその時だ。


 滅びはどんな物にも必ずある。

 運命を受け入れよう。


 国境を無事通過。

 母国に帰ってきた。

 王都に帰ると、査問会を招集すると通知があった。

 盗賊の件で話があるらしい。


 やつらも馬鹿じゃないな。

 俺が裏で糸を引いていると知っている。


「あなた、どうします?」


 心配そうなエクレアの顔。


「心配するな。法律なら調べてある」


 さてと、査問会とやらに行きますか。

 法廷で査問会は開かれるようだ。


 査問会に出席しているのは俺を除けば全員が貴族派。


「アフォガート子爵、貴殿には盗賊を操って街道の平和を脅かした嫌疑が掛かっている。申し開きは?」

「何の事でしょう」


 法廷はざわめいた。


「アフォガート子爵、嘘判別の魔道具に掛かってもらおう」

「いいですよ」


 嘘判別の魔道具が用意された。


「では始める。盗賊を操ったか」

「いいえ」


「嘘だ。こんな結果認めない。いいやわしが操ったと証言すれば。皆の衆それでいいか」

「わたしは反対します。もし反対が受け入れなければ、査問会で嘘の証言をしたとしてあなたを訴えます。嘘判別の魔道具は最後の砦であり神聖な物です」


 反対を唱えたのは俺が奴隷化した貴族の一人だ。


「この教会かぶれが」

「皆さんもそう思いますよね」


 少なくない拍手が起こる。


「ぐぬぬ」

「ここでアフォガート子爵の言い分を聞いてみようじゃありませんか」

「言ってみろ」


「えー、まず確認します。盗賊がいる国境近くのあの土地は、未開の地ですよね」

「そうなってますな」


 その付近に領地をもっている貴族が認めた。


「未開の地は領地になってない限りは国の物でもない」

「そうなっている」


「彼等はあそこに国を興したのです。街道の商品の略奪は言わば税金。かれらは盗賊国の国民なのです。もはや盗賊ではない」

「そんな屁理屈が通るか!」


「でも、王国の法に、国の領土でない土地で、国を興してはならないとは書いてない」

「ぐぬぬ。そうだ、盗賊国を操ったか」


 嘘判別の魔道具を起動したようだ。


「過去、建国を手伝ったのは認めます。今、彼らは好きにやってます。命令してません。ですがそれに何の罪が。さっきも言った通りに、あそこで国を興すことは罪ではない」

「認めんぞ。そんなことは」


「用がこれだけなら帰ります。忙しいもので。決を採ってみたらどうです」

「アフォガート子爵に罪があると思う方は挙手願います」


 上がった手は少ない。

 だって王国の法に背いてないからな。

 まともな人間なら罪には問えない。

 感情的には大罪でもな。

 法が無視されるなら、そんなの国じゃない。

 その場合は俺は奴隷化してない貴族を全て殺すつもりだった。


 そうなると戦乱だろうな。

 ギブアンドテイクが釣り合えばそれも良いだろう。

 焼け出された人たちや死んだ人に賠償金を払っていたら、金がいくらあっても足りない。

 なのでその方策はとらない。

 平和裏にことを進めるに限る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る