第85話 魔法契約と、したい事と、計画完了

 奴隷にした殺し屋から連絡が来た。

 俺は仮面を着けて殺し屋の相棒として、ヘーゼルの屋敷に入った。


「ふむ、ラッカーは他国の貴族だと言うのだね。それも飛ぶ鳥を落とす勢いの」

「ええ」


 ヘーゼルと殺し屋の会話を俺は横で聞いていた。


「他国の貴族だとて構うものか。殺してしまえ」

「ですが、奴は用心深い。ラウニーが殺せたのは、奴がわざと隙を作ってたからに、間違いありません」

「容易くはいかんか」

「玉砕覚悟で襲撃を掛ければあるいは」

「金ならいくらでも払おう。ただし、半金は成功報酬だ」

「魔法契約を結んで頂きたい。さすがに貴族暗殺ともなるとそういう物がほしいですね」

「いいだろう」

「では、おい」


 やっと俺の出番か。


「【魔法契約】」

「何ともないな」

「跪け」


「何っ! 足が勝手に。わしに何をした」

「お前は今日から俺の奴隷だ」


 俺は仮面を取った。


「おのれ騙したな。お前は、ラッカー。許さんぞ」

「返事は?」

「はい。口が勝手に」


「お前はもう奴隷なんだよ。そのうち慣れるさ」

「くっ屈辱だ」


 俺は奴隷達いつも与えている指示を命令した。

 俺の味方に危害を加えない事。

 自分の身は守る事。

 俺の命令は絶対服従などなど。


「おい、殺し屋。ラウニーに伝言を持って行け」

「褒美は。男にしてくれるんじゃなかったか」

「しょうがないな。【性転換】」


 殺し屋は自分の胸を触り、股間を確かめた。


「本当に男になっている」

「嘘は言わないさ。さっさと行け」


 ほどなくしてヘーゼルの屋敷にラウニーがやってきた。


「ヘーゼルが跪いている。この光景を何度夢見たことか」

「言っとくが殺すのはヘーゼルの役目が終わった後だ」


 ラウニーの変装を解いた。


「ラウニー、生きていたのか」

「お生憎様ね。地下室の死体はラッカーの奥さんが魔法で作り出した」


 後ろに控えている殺し屋が何か言いたげだ。


「殺し屋、何か言いたげだな。言ってみろ」

「ラウニー、君は僕の天使だ。結婚してくれ」


 何だかな。

 男になってしたい事がこれか。


「嫌よ。お断り」

「そんなこと言わずに、頷いてくれ」


「殺し屋、言っておくが、ラウニーが承諾するまで襲うのは禁止だからな。命令だ」

「そんなことしないよ」

「ならいい。ラウニー、殺し屋は部下としてこき使ってやってくれ」

「それなら、ヘーゼルとの連絡役にしましょう」

「するする。君の頼みなら国王だって暗殺出来る」


 魔道具を牛耳っているコンポ―伯爵との伝手も出来た。

 ヘーゼルとコンポ―伯爵は昵懇じっこんの間柄。

 ヘーゼルは主に販売担当。

 コンポ―は生産だ。


 筋書きはこうだ。

 ヘーゼルの妨害工作が激しくなり、ラウニーは劣勢に。

 ラメルはラウニーを裏切ってコンポ―伯爵に泣きつく。


 コンポ―とラメルが魔法契約を結ぶように、ヘーゼルが後押しする。

 上手くいくはずだ。


 ラウニー商会にラウニーが復帰。

 だが、商品が奪われる事態が頻発。

 もちろんマッチポンプだ。

 ヘーゼルは盗品を売り出した。

 売った金はラウニー商会に入っている。

 損してないから、ラウニーもご満悦だ。

 ニコニコ顔を渋い顔にするのに苦労しているようだ。


 表向きは商品を奪われて、困った状態だからな。


 『ラウニー商会の商品の生産を一手に引き受けている。ラメル商会の会頭のラメルといいます。ラウニー商会から商品の代金が支払われなくなりました。つきましてはコンポ―伯爵にお力添えを頂きたく存じます』とラメルがコンポ―に手紙を書いた。

 ヘーゼルがこの話に乗り気になったと見せかけて、コンポ―を説得する。


 予定とは少し違ったが、まあ良いだろう。

 魔法契約の場が整った。


「では、ラメル商会は売値の2割で商品を卸す。利益は、わしヘーゼルと、コンポ―殿と折半ということで」

「うむよろしい」

「魔法契約を結びましょう」

「魔法契約? 聞いたことがないな」


「私が説明します」


 ラメルが説明役を買って出る。


「申せ」

「魔法契約すると契約した内容が破れなくなります。ここにいる3人のうち2人が破棄すると、魔法の効果はなくなります」


 契約は奴隷契約で嘘っぱちだ。

 破れないのはたしかなので本当だとも言える。

 コンポ―はヘーゼルが味方すればいつでも破棄できると思うだろう。


「疑いはもっとも。ここに嘘判別の魔道具を使ってはいかがか」


 とヘーゼルが言って、コンポ―は嘘判別の魔道具を持って来させた。


「うむ、さっき言ったことは本当か?」


 コンポ―がそうラメルに聞いた。


「本当です」

「偽りではないようだな」


 嘘じゃない。

 ヘーゼル、ラメル、コンポ―のうちの二人が破棄したいと言えば、コンポ―の奴隷化は解くつもりだ。

 前もってラメルにそう話してある。

 嘘じゃないよ。

 俺の命をかけて誓ってある。


 もっとも、ヘーゼルが破棄したいとは絶対に言えない。

 そう、命令してあるからな。


「いいだろう」


 俺は進み出た。


「【魔法契約】。よし跪け」

「足が勝手に、騙したな」

「騙してなどいないさ。ヘーゼル破棄したいって言えるか?」

「言えません」


 言うなと命令してあるからな。


「何だと。ヘーゼル、貴様、裏切ったのか」

「すまん。わしには出来ないんだ」


 これで、この国でやる事が終わったな。

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