第81話 面会と、嵌めると、債券

 裁判官に会う。

 当事者の関係者と会わないなどという原則はない。

 職業意識、ガバガバだものな。

 こちらもそれで助かるのだが。


「それでどのような御用ですか」

「今日は挨拶に来ました」

「それはそれは」


 俺は菓子の箱を机の上に置いて、蓋を取った。

 中には菓子がぎっしりと詰まっている。

 落胆する相手の顔。


 俺は菓子の一つを取って。


「毒見です」


 そう言って食べた。

 菓子の下には金貨が見える。

 裁判官はにんまりと笑った。


「黄金色の菓子は美味しいでしょうなぁ」

「もちろんです。召し上がって頂きたいのですが。受け取りの証拠がほしい。【受け取り契約】」


 俺は奴隷契約の魔法を掛けた。


「もちろんいいですとも」


 簡単に掛かりやがって。

 俺はほくそ笑んだ。


「命令だ。俺の言うように判決を下せ」

「はい。何をした」

「さっきの魔法は奴隷契約だ。金を受け取ったから成立だな」

「くっ、卑怯な手を」

「これからも賄賂は払ってやる。それとも裁判官を自分から辞めるか?」

「辞めるわけないだろう」


「だよな。普段は公正な裁判をしてりゃいい。できるよな」

「はい。くそっ」


 10人ぐらいの裁判官と会ったが結果はみんな同じだった。

 異世界では公正な裁判などありえない。


 俺はヘーゼルの子飼いを提訴した。

 そして裁判が始まった。

 ヘーゼルの子飼いのモンド男爵というのだが、この男は終始ニヤニヤしていた。

 今日は判決の日。


「判決を下す。命令書の証拠により、モンド男爵が罪もない商会を兵士に襲わせたのは明白。国王に報告すると共に、慰謝料の支払いを命じる」

「くそっ! 裏切りやがって! この二枚舌裁判官、訴えてやる!」

「どうぞご自由に」


 俺が裁判官全てを掌握していると今日の裁判官は知っているからな。

 国王が茶々を入れない限り、裁判官は有罪にはならない。


「提案がある。フレジェ侯爵との密約を話すならチャラにしてやってもいい」


 フレジェ侯爵はヘーゼルの野郎の事だ。


「お前は誰だ」

「ラッカーだよ」

「覚えたぞ」


 俺の名前を出したのは、いわば餌。

 貴族派の長老と同盟に持っていかないといけない。

 その為には俺を敵認定して、同盟を申し込むという形を取らないと。


 今頃ヘーゼルは必死になって俺の情報を集めているに違いない。

 モンド男爵が裏切ればそれでも良かったが、そんなに上手くいくわけがない。


 よし、ヘーゼルに圧力を掛けるぞ。


 魔道具を作る魔道具を使って、アプリを量産する。

 何十万という数のアプリが一度に市場に出て魔道具の価値は下がった。


 何せアプリは圧倒的に安いからな。

 クズ魔石を使っているから安く出来る。

 それに損しても使用料でプラスになれば良い。


 商業ギルドに顔を出した。


「ヘーゼルは借金とかしてないか? 債権を買おうと思ってな。持て余しているだろ」

「ございます」


 思った通りだ。

 魔道具が売れなければ赤字が膨らむ。

 在庫を持っていても保管料がかさむ一方だからな。


 商会の従業員の給料だって払わないといけない。

 商売で利益が上がれば賄賂だって払えるが、賄賂が払えないとますます利益が下がる。

 いったん悪循環に陥ると借金という事になる。


「ヘーゼルの債権は、ラウニー商会が全て買い取ろう。それとこの事実を広めて欲しい」

「よろしいので」

「もちろん」


 殺し屋が来るに違いない。

 それも1級の奴がな。

 そいつを返り討ちにして手駒にする計画だ。


「ヘーゼル侯爵の終わりは近いというわけですか」

「それはどうかな」

「では手駒として使うつもりですか」

「言えないな」

「分かりました。どちらでも損が出ないように致しましょう」


「これだから、商業ギルドは。ははははっ」

「ははははっ」


 それから、商談して帰った。


「おい、お前ら。1級の殺し屋が来る。準備しておけ」

「へい」

「警報器を仕掛けるのを忘れるなよ」

「わかってまさぁ」


 警報器は領地の警備に使っている。

 警報を通信魔法にすると音が出ない。

 魔法の伝言が届くだけだ。

 引っ掛かった事に気がつかないと、囲まれて終わりだ。

 それも透明人間にな。


 普通の奴ならこれで捕まるはずだが、今回は特別に他の仕掛けも用意した。

 今晩あたり来てくれると嬉しいのだが。

 債権を買ったという話が伝わっているはずだから、きっと焦っているに違いない。

 裁判官と債権を抑えれば、やりたい放題出来る。

 死のカウントダウン待ったなしだ。

 ふふふっ、もう手の平の上だ。

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