第80話 ラウニー商会と、兵士と、証拠
「いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ!」
俺はラウニー商会に来ていた。
「生水のアプリがたったの銅貨10枚。使用料は1回銅貨1枚だよ」
「盛況だな」
「おかげさまで。さあ中に入って。お茶を淹れるわ」
ラウニーに迎え入れられた。
「ところで、ヘーゼルの野郎にあれから動きは?」
「ないわね。商売の妨害もないし、刺客も来ていないわ。噂では呪術師を求めているらしいけど、呪術師は眉唾物よ。物語には出て来るけど、実物には会った事がないわね」
「いや、呪術師はいるぞ。俺は呪いを掛けられた。ただ、呪術師は見てないがな」
「怖いわね」
「どうぞ」
従業員が茶菓子に、クッキーを持って来てくれた。
毒検知のアプリを起動する。
毒は入ってないようだ。
「毒検知のアプリは便利よね」
「普通なら毒見役なのだろうがな。俺のギブアンドテイクの信条からすると、毒見役には大金を払わないといけなくなる。アプリなら銅貨10枚で格安だ」
「ギブアンドテイク、そういう意味だと、商業ギルドの委託料は妥当なのかしら。盗賊に襲われたという事を聞かないわ」
「商業ギルドの荷馬車は襲われない。襲われたら、襲った犯人は絶対に殺す。何年も掛けてな」
「それが信頼なのね」
「まあな。アプリの信頼は、初期費用は安く。使うたびに金を取られるって事だ。いわば使い捨ての契約。だから、最終的には損だと分かってて使う」
「美容のアプリは使用料が高いし、競争相手がいないわ」
「あれは隙間を狙った商品だ。あったらいいなと思ったものを形にしただけだ。競争相手ができるとまた話は違う」
「商売は難しいわね」
「簡単だよ。需要と供給の原理しかない。ただ、需要を読むのが難しいだけさ」
「マダム、大変です。兵士が取り囲んでいます」
どうやら俺の出番のようだ。
「行ってくる」
「気をつけて」
報告の通り、ラウニー商会の周りを兵士達が取り囲んでいるのが見えた。
そういう手に出くるとは。
チンピラみたいに叩きのめす訳にはいかないって?
そんな事はない。
よしやるか。
俺は姿隠しを使い、兵士の背後に忍び寄った。
そして、頭に棍棒の一撃。
意識をかりとった。
「ぐわっ」
「おい、どうした。しっかりしろ。ぐわっ」
次々にやられていく兵士達。
「これが呪いか? 呪いに注意すべしと書かれていたが。ぐわっ」
何に書かれていたんだ。
ちょっと気になったが、俺は全ての兵士を叩きのめした。
「病人だ! 介抱しないと! ラウニーの屋敷に運び込め! 兵隊さんしっかり!」
姿を現して、叫んだ。
「任せろ。野郎ども仕事だ」
くっくっく。
ざっとこんなもんよ。
姿隠しで叩きのめし。
そして、拉致。
奴隷化のコンボだぜ。
奴隷化を拒否する奴は行方不明だ。
ラウニー邸で兵士に水を掛けて起こす。
「起きろ」
「こんな事をしてただで済むと思っているのか」
「それは、報告出来ればな。これからお楽しみタイムだ」
「心得てまさぁ。任してくだせぇ」
「何をする。うわー」
ほどなくして奴隷化はなった。
行方不明になる奴はいなかったようだ。
「お前らは、任務に疑問を感じて、引き上げた。いいな?」
「はい。はっ、口が勝手に」
「よし、何事もなかったかのように軍に復帰しろ」
「はい」
奴隷化の事は喋るなと言っておいたから、拷問されても口は割らないはず。
「持って来ました」
兵士に持って来させたのは命令書。
命令はヘーゼルの子飼いから出ていた。
馬鹿な奴だ。
口約束ならともかく証拠を残すとは。
ある商人は帳簿や指示書などの文字を書いた物を一切残さない事にしたそうだ。
とうぜん横領がはびこる。
だが、証拠を残すリスクに比べたら屁でもないと笑ったそうだ。
横領した従業員が分かった場合は罰金にして、分からない時は手口を聞いて昇進させたいう。
その男は豪商になったらしいが、証拠のリスクという面においては分かる話だ。
「ラウニー、裁判を起こすぞ。反撃の時間だ。証拠の命令書もこの手にある」
「裁判官は敵の息が掛かっているわよ。それはどうするの?」
「快く協力してもらうさ。裁判官と会えるように頼むぞ」
「会うだけなら、簡単だわ。そのための伝手は沢山あるから」
さて、これから陰謀の時間だ。
とりあえずは裁判官からだな。
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