第79話 爵位と、襲撃と、チンピラ

 今日は、ラウニーが爵位を継ぐ儀式の日。

 ラウニーの宿敵であるヘーゼルは、これまでに何回か刺客を送って来たようだが、奴隷達が姿隠しをして警戒しているので、事なきを得た。


 透明人間が刺客を殺して、死体は肥料にするアプリで、土にかえったわけで。

 ヘーゼルは刺客が近づくと、土になるとでも思ったのか定かではないが、刺客を送ってこなくなった。

 噂では人間を土にする魔法使いをヘーゼルが探していると聞いた。

 ご苦労なこった。


 儀式に俺の出番はない。

 笑顔で送り出した。

 もちろん姿隠しした護衛付きでだ。


 ほどなくして、ラウニーは疲れた様子で帰ってきた。


「どうだった?」

「滞りなく済んだわ。結婚を申し込まれるのには辟易へきえきしたけど」


 ラウニーは方はこれで良い。

 後は貴族の免税特権を利用するだけだ。

 妊娠アプリで恩を売った貴族も多数いる。


 商売が軌道に乗りさえすれば、後は容易いだろう。

 そう思っていたら。


「大変です。ラウニー商会が襲撃されてます」


 商会の従業員が報せに来た。


「お前ら付いて来い。分かってるな。なるべく殺すなよ」

「へい」


 奴隷達とラウニー商会に行くと、陳列ケースや棚は壊され酷い有り様だ。

 6人のチンピラが暴れている。


「やってしまえ」

「へい」


 奴隷達がチンピラに襲い掛かる。

 盗賊とチンピラでは格が違うようだ。

 踏んでる場数とやってきた悪行の質が比べ物にならないみたいで、たちまちチンピラたちは叩き伏せられた。


 気絶させられたチンピラが、ラウニーの屋敷に運び込まれる。


「こいつらを殺したら、不味いよな」

「襲撃時なら正当防衛だけど、今は不味いわね」


「じゃあ、奴隷になるまで、拷問しよう」

「へい。任せてくだせぇ」


 じゃあまずは治療からだな。

 教会から神官を呼んで治療のアプリを使わせた。

 治療を受け入れたようだ。


 馬鹿な奴らだ治療を受け入れたら、拷問と完全回復のループになるのにな。

 チンピラは根性がなかったようで、拷問に根を上げてすぐに奴隷になった。


「新しい奴隷諸君。君達は俺の説教に改心して、俺達の仲間になった。いいね」

「くそっ」

「後で覚えてろ」

「殺してやる」

「俺達のバックを知ってるのか」

「後悔するぞ」

「逃げてやる」


「返事は?」

「はい、口が勝手に」

「はい、くそっ」

「はい、なんでこんな事に」

「はい、どうなっている」

「はい、はははっ」

「はい、俺はどうしちまったんだ」


「ラウニー商会に仇なす事は許さん。命令だ」

「はい。どうしようもないのか」

「はい。くそっ。世の中は糞だ」

「はい。もういいよ」

「はい。まいった」

「はい。俺はもう逆らえないのか」

「はい。勘弁してくれよ」


 チンピラがラウニー商会でただで働き始めた。

 今は目立つところで掃除をさせている。

 ヘーゼルはきっと地団駄踏んでいるに違いない。

 店を滅茶苦茶にするはずが、相手の勢力を増やしたんだからな。


「姿を隠してチンピラ達を守ってやれ。口封じにくるはずだからな」

「へい」


 ラウニーの屋敷にチンピラを住まわせる事にした。

 屋敷は惨劇があったから、募集しても来る使用人はいない。

 今までは俺達と、ラメル商会の人間、奴隷達が住んでいただけだった。


 夜、寝静まった頃に戦闘音がした。

 見に行くと刺客が庭に転がっている。

 転がっていた死体がこんもりとした土くれになった。


 見ているチンピラ達が息を飲むのが聞こえた。


「呪いなのか」

「くそっ、こんな仕事受けるんじゃなかった」

「口封じに来たのか」

「俺は全部喋る」

「誰か助けてくれ」

「嘘だと言ってくれよ」


「言っとくが情報は要らないぞ。お前達が助かったのは、運が良かっただけだ。店先を血で汚すのが嫌だっただけだ」

「じゃあ、殺せよ」


 チンピラのリーダー格が吐き捨てるように言った。


「借金を返したらな。店に与えた損害と慰謝料が借金になっている。ギブアンドテイクだ。負を与えたのだから、それを働いて返せよ」

「借金はいくらだ?」


「ラウニー、何枚だ?」

「貴族の対面を傷つけたのだから、金貨100枚は貰わないと」


「お前らの月給は金貨1枚ってところだから、8年とちょっとだな」

「くそっ、裁判になっても、助けてもらえるはずなのに」

「実際は口封じされて終わりだったけどな」

「話が違う」


「ラウニー、精々こき使ってやれ。金貨1枚は高給取りだから、その分働かせないと。ギブアンドテイクだ」


 さて、ヘーゼルはこれからどういう手でくるかな。

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