第71話 クロウラーと、取り立てと、バーベキュー

 一時期止んでいた襲撃がまた激しくなっている。

 たぶん実家から金を借りられなくなったのだろう。

 もう金は吸い上げられないな。

 潰すか。


 俺は犯罪奴隷にあるモンスターを捕獲するように指示を出した。

 そのモンスターとはクロウラーという芋虫のモンスターだ。

 このクロウラー、草しか食わない。

 糸を使った攻撃はするが、動きを封じた後は何もしない。

 大人しいと言えば大人しい。


 電撃のアプリの敵ではないので、簡単に捕まえて、新しく来た貴族の領地に放った。

 結果、やつらの領地は阿鼻叫喚になった。

 蒔いた野菜が全滅してしまったのだ。


 俺の領値は自動迎撃があるので無傷。

 この嫌がらせは姿隠しを使ってやったのでばれてはいない。

 まあ、誰がやったかは鈍い奴でも気づく事だけど。


「商業ギルトに対してのツケが溜まっているのですよ。取り立ててはもらえませんか」

「良いねぇ。やるか」


 俺は奴隷達を引き連れて奴らの領地に行った。


「商業ギルドが金を払って欲しいそうだ」

「お前はラッカー。誰が払うか」

「借金の証文はあるんだよ。利子だけでも入れるのが普通だと思うんだがな」

「くそっ」

「おっやるか。こっちの方が人数は多いぞ」

「くっ、とにかく払えない」


「じゃあ差し押さえだな。お前ら貴族の屋敷のめぼしい物はみんな持って行け」

「うがぁ」

「お貴族様がご乱心だ。取り押さえて、差し押さえを監督してもらえ」


 貴族は暴れたがどうにもならなかった。

 俺達が差し押さえするのを見て喚いているだけだ。


「それは家を証明する短剣」

「持って行け」


「それは成人の時の贈り物」

「持って行け」


「それは学園卒業の記念品」

「持って行け」


「くそが許さんぞ」

「返してほしければ、借金を返すんだな。俺も鬼じゃない。商業ギルドには1週間保管するように言っておくよ」

「うらぁ、放せ。うがぁ、覚えてろよ」


「よし、撤収しよう」

「村人からは取らなくて良いので?」

「借金は貴族の名前でなされているからな。領民は関係ない」


 この後、差し押さえを何件もやったが反応は同じだった。

 国から役人が来た。


「モンスターを使って襲撃したと訴えがあった」

「役人には関係ない話なんだが、雑草はしぶとくてね。放置していると種が飛んで来る。でモンスターを使って駆除しようとしたんだ。何か問題が」

「本当か?」

「嘘判別のアプリに掛かっても良い」


「ならばそうしよう」


 場が整えられた。


「モンスターを放ったのは雑草退治の為か?」

「はい、そうです。しぶとく種が飛んで来るもんでね」


 略奪に来る領民なんて、雑草だよ。

 争いの種にしかならない。


「真実です。どうしますか」


 そうだろう。

 心の底からそう思っているからな。


「悪意がなかったか聞け」

「その行為に悪意はあったか」

「ないな、生活の為だよ。こっちも食っていかなきゃいけない」


 悪意などない全ては防衛のためだ。

 ギブアンドテイクに従ったまでだ。


「真実です」

「疑って、済まなかったね。だが今後は荒野といえどもモンスターを放すのは辞めてもらいたい」

「迷惑になったのなら辞めるよ。うちの領は被害がなかったものでな」


 放ったモンスターを積極的に狩る事はしない。

 奴らは何時まで持ちこたえられるかな。


 よし、境界でバーベキューパーティをしよう。

 奴隷達を集めて境界でバーベキューをした。

 焼けた醤油の良い匂いが辺りに立ち込める。


 召喚で貝も採れるのには驚いた。

 もっとも浅瀬に限るがな。


 30センチほどのホタテに似た貝がぱっくりと口を開ける。

 おお、美味そうだな。


 やつらの所の領民が遠巻きにしてこちらを見ている。

 自動迎撃は今も作動中だからな。


「貴様たちには人の心がないのか!!」


 貴族が喚いている。

 略奪に来る隣人を人とは思えない。

 雑草だよ。

 雑草に人の心を説かれてもね。


「遠慮せずにどんどん食え。今日は俺のおごりだ。酒もあるぞ」


 奴隷達が豪快に飲み食いして笑う。

 ほとんど盗賊出身だから、奴らに恵んでやってはなどという奴隷はいない。


 料理が無くなっていくたびにどよめきが起きるようになった。

 奴らに子供がいたら多少心が痛んだだろうが、奴らの領民はほんど男だ。

 それに略奪したという事は、殺されても仕方ない事をしているという意識もあるに違いない。

 今更だな。

 売られた喧嘩は買う。

 仲良くしたいなら、そう言ってくれば良い。

 態度が伴っていれば、そのように対応するさ。

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