第67話 裁判官と、教会と、改革

 嘘判別は前に作った。

 それのアプリを俺は裁判所と教会に寄付。

 俺への使用料は銅貨1枚だ。

 ここからが交渉だ。


「嘘判別のアプリはどうですかな」


 俺は若手の正義派と呼ばれている裁判官にそう切り出した。


「大変結構です」

「冤罪もだいぶ減ったのでは?」

「ええ、嘘判別に掛かる費用を改訂しまして、裕福な方なら誰でも使えるようになりました」

「歯がゆいと思いませんか? もっと嘘判別のアプリがあれば貧民でも使えるようになる」

「ええ、その通りです」


「嘘判別のアプリを千個寄付しても良いと思ってます。ただし」

「ただし、何です?」


 裁判官がごくりと唾を飲んだ。


「公正な裁判をしてほしい。俺が求めるのはそれに尽きる。貴族派や王族派の意に沿って、やってもない罪で有罪にされるのは御免こうむる」

「それはまともな裁判官であれば誰しも思う事です。ですが、状況は厳しい。貴族派、王族派の息が掛かった裁判官は少なからずいます」

「いくらあれば公正な裁判が受けられるようになります?」

「金貨1万枚ほどあれば」

「出しましょう。見返りはさっきも言った通りに公正な裁判です。嘘判別のアプリを使いたい人間は使用する権利がある。そう改革してほしい」

「やりましょう。公正でない裁判官を追放しましょう」


「どのようにですかな?」

「ええと代わりのポストを用意して穏便に移って頂くつもりです」

「甘いな」

「甘いですか」


「弱みを握るのです」

「それは犯罪です!」

「いいですか。弱みという物は真実です。ない事実は弱みにならない。我々はそれを知っているぞと告げるだけです。何の罪になりますか」

「それは脅迫というものでは?」

「要求を告げれば脅迫でしょう。事実を告げるだけでは脅迫にならない」

「ですが」

「懸念はもっとも。上手くいくか自信がないのでしょう。別に真実は面と向かって告げなくても良い。送り主のない手紙でも良いのです。なに反応がなくてもべつに構わない。こちらの痛手にはならないですから」

「そんな事で良いのですか」


 こいつの筆跡で手紙を送れば、送り主はおのずと分かる。

 そこからは俺の出番だ。

 噂を流せば良い。

 若手の正義派裁判官がだれだれを好ましく思ってないとね。

 そして移るべきポストを提示する。


 弱みを握られたらびくびくするだろうから。

 簡単に屈するだろう。

 だがしぶとい奴もいるはずだ。

 そいつらはこれから行く教会になんとかしてもらう。


「教皇様におかれましてはご機嫌うるわしく」

「どうやら頼み事ですかな」


「ええ、教義に外れている者を諭してほしいだけです」

「その不心得者は誰ですか?」

「裁判官です」

「それはいけませんな。ふふふっ」

「ですな。あはははっ」


 弱みを握って大半の悪徳裁判官は他所に移った。

 今日は大物とされる悪徳裁判官が標的だ。


「何だね! 君達は?」

「許せない悪徳を積んでいると聞いてやってきたよ。どうする? 神官に説教を食らうかな」

「何の事だ」

「子供」

「くっ」

「スラムの子供」

「ぐくっ」

「どうする別室で神官の説教を大人しく食らうか」

「ええい。守衛よ。こいつらを捕えて牢にぶち込むのだ」


 まったく、俺は近衛騎士の頂点に立った男だぜ。

 守衛ごときじゃ相手にならないよ。

 守衛達に稽古をつけてやった。


「こいつはスラムの子供を誘拐して、いかがわしくておぞましい行為にふけっていた」

「くそっ」

「教会はあなたを破門する」


「おい、守衛、この男を逮捕して牢にぶち込め。後は若手の裁判官に任せるとしよう」

「任せて下さい罪は償わせます」

「こんなの茶番だ。誰も信じない。貴族派が黙っていないぞ」


「ではあなたには嘘判別のアプリに掛かってもらいましょう」


 神官が嘘判別のアプリをちらつかせる。


「そんな魔道具はインチキだ」

「教会のお墨付きを疑うのですか。悪魔のようなおぞましい犯罪を犯してその言い草ですか。異端でなければ嘘判別のアプリに掛かりなさい」

「くそっ」

「子供を犯して殺しましたか?」

「そんな事してない」


「おやっ嘘みたいですね。罪を重ねましたね。罪深いものです。正直に全部話せば、幾ばくかの罪を神もお赦しになるでしょう」

「こんなの違法だ。教会が何の権利があって裁くのだ」

「悪魔のごとき所業ですから、悪魔が化けているのかと。それは教会の管轄です」


「仕方ないですね。若手で何とかしようと思いましたが、悪魔なら教会にお任せします」

「連れて行きなさい」


「嫌だ」

「教会には独自の聞き出し方が存在します」

「ひっ。喋る。全部喋る。拷問は辞めてくれ」


「最初からそうおっしゃれば神も赦してくれるというものです」


 裁判で貴族派がちょっかい掛けて来たら、教会で身柄をさらおう。

 きっと民衆も喜んでくれるはずだ。

 顔の青くなっている裁判官が何人かいる。

 これで改革も進むだろう。

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