第66話 監査と、ハニートラップと、コンテナ
ちっ、脱税の監査がやってきた。
もちろんちゃんと税金は納めている。
「ぐふふっ、アフォガート男爵が脱税しているという投書がありましてな」
豚みたいな役人が、そう言って監査を始めた。
俺は監査の様子を眺め、豚役人に金貨100枚が入った袋を渡した。
「これは何ですかな?」
「お疲れでしょうから、これで美味しい物でも食べて下さい。うちの領は大して美味い物がないので、別の場所でも食べられるようにこういう形に」
「けしからんですな」
そう言って豚役人はわざとらしく眉をひそめた。
俺に脱税の罪を作ろうとしているのが見え見えだ。
「おい」
「「「はーい♡」」」
盗賊の情婦だった女達が俺の合図で現れた。
豚役人にしなだれ掛かる。
「お疲れのようなのでマッサージして差し上げろ」
「「「はい」」」
「けしからん。けしからんですぞ」
「あら、大変。腫れています。さすってあげないと」
「別室でやって差し上げろ」
助平な奴で助かった。
ハニートラップは古典的だが効果がある。
女達には金貨100枚ずつ支払った。
それだけの価値がある。
小一時間経って、豚役人が少し疲れた顔で現れた。
「撤収するぞ。不正はなかったですな。これも頂いておこう。今夜は精の付く物を食べないと」
金貨の袋も持っていくのか、ずうずうしい奴だ。
こんな事が度々あると厄介だな。
手を打たないといけないが、当分は来ないだろう。
コンテナの試作品を見る。
注文通りに組み立て式になっている。
邪魔な時は折りたためる。
干物を入れてみた。
酸素除去と冷凍のアプリを起動してみる。
密閉してないから効率が悪い。
エアーカーテンを組み込むべきかな。
虫よけにはじき出す風もいるな。
結界の魔法が欲しいな。
ああ、石の壁を召喚して、要らなくなったら送還すれば良いのか。
重くなるのが難点だな。
鉄の板の方がいいかもな。
薄くても密閉するという用途には使える。
早速やってみた。
鉄の板で密閉してから、酸素除去と冷凍を掛ける。
良い具合だ。
問題は多少重くなるのと、鉄の板が汗をかく。
ええと、温熱で蒸発させるんだったな。
冷蔵庫にそういうのがあると知っている。
この機能も盛り込もう。
干物運搬用コンテナが出来上がった。
密閉しているから虫も入らない。
商業ギルドの出張所にやってきた。
「コンテナに付けるアプリが出来た」
「では早速。まずは鉄で密閉ですか。おお、コンテナの内側に鉄の板が出来ましたね。そして、酸素除去と冷凍ですか」
「どうだ」
「質問してよろしいですか。酸素除去の意味は?」
「酸素っていうのは呼吸する時に必要だ。だが物を劣化させたりもする。鉄に錆ができるのも酸素の仕業だ」
「そうなると果物なんかはどうなんでしょうね。呼吸しているはずです」
「だな。果物には酸素除去は要らないかも。色々と試してみると良い」
「ええ」
「果物や野菜によっては極端に寒いのは駄目だ。適度な寒さと言うのがある」
「なるほど。試行錯誤ですね。ノウハウを真似される危険性が減ってなによりです」
「後は、乾燥が不味いのがあるかもな。湿度管理も必要か。生きている植物なんかだと光も必要か」
「博識ですね」
「まあ色々とな。本は読んだ。あとは殺菌か。紫外線で対処できるのはそうしよう」
「紫外線で殺菌ですか。良く分かりません」
「虫より小さな生き物がいるんだ。こいつが悪さする。熱を加えたりすると簡単に死ぬんだが。食べ物に熱を加えると味が変わるだろう。それで紫外線という光だ」
「なるほど」
「思いつくのはこんな感じかな。また何か思いついたら機能に付け加えよう」
だいぶ、科学知識を披露しちまった。
だが、これぐらいは問題ないだろう。
芋と玉ねぎに放射線とかそういうやばそうなのはやらない。
放射線は見えない攻撃として有効だからな。
敵国の大使館員に照射したとかいう与太話を聞いた事がある。
ガイガーカウンターがあれば一発でばれるが、この世界にはそんな物はない。
遅効性だが、かなり危険な兵器が出来るだろう。
酸素除去も危ないが、これは魔法で対処できる。
魔法は召喚魔法だから、酸素も呼べる。
やばいのは一酸化炭素とかだ。
匂いも色もないから、知らないと中毒で簡単に死ぬ。
とにかく危ない知識は封印だ。
それしか手がない時は封印解除するが、そんな時が来ない事を祈る。
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