第62話 密約と、貸付と、魔道具大臣

 貴族派との繋がりも出来たし、そろそろ切り崩し工作をするか。


「今日、呼んだのは、密約を結んでは頂けないかと」


 グルト男爵に俺はそう切り出した。


「そう何度も貴族派を裏切れない」

「特産品を売ってほしい。高く買うよ」

「本当か?」

「ええ、それだけだ。裏はない」

「そんな事なら、密約のうちには入らない」

「貴族派にばれると、外聞が悪いだろう。分からないように処理しようというわけだよ」

「気遣いしてもらってすまんな」

「気にする事はない。こっちも商売だ」


 今までより遠くまで運べるという事は、売り先が広がるという事だ。

 損はしない。

 俺も、特産品を売る貴族も、運ぶ商会も。


 だが、一度依存してしまうと、どうなるか。

 高値で売れないと経済が成り立たなくなってしまう。

 俺が手を引いた時に何が起こるか。

 不況だ。

 経済が回らなくなる。


 この策の良いのは、俺への好感度が上がるところだ。

 実際は依存してしまって、牛耳られてしまうのにな。


「特産品の輸出は滞りなく進んでます。流通に革命を起こすのがこんなに金になるとは思いませんでした」


 商会の一室でラメルにそう言われた。


「とにかく世界は広い。高く売れる場所がどこかにきっとある。輸送コストさえ気にしなければな」

「飛ぶ板を馬代わりに使う事で、さらに効率が良くなりましたね」

「馬は動物としては優秀だが、魔法には敵わない。特に俺のアプリにはな」


 さて、麦の相場で損した貴族派の貴族に金を貸し付けよう。


「今日集まって貰ったのは、金を融通したいと思う」


 取引のあるゲルト男爵達の伝手で、首の回らない貴族派の貴族を集めた。


「ありがたい」


 喜びの声が次々に上がる。

 もう派閥という枷はどうにでも良いと思っているらしい。

 俺が金を貸したら踏み倒してしらを切るぐらいはやりそうだな。


「ではひとりずつ、別室にどうぞ」


 別室で貴族を待つ。


「いくら融通したらいいですかね?」

「金貨500枚、いいや金貨700枚は欲しい」

「良いですよ。ただし魔法契約を結んでもらう」


「何だそんな事か。やりたまえ」

「【魔法契約】」

「ふむ、これで終りか」

「ええ、終わりです。金は後日届けます」


 魔法契約の魔法の中身は奴隷化だ。

 奴隷化も魔法契約である事には代わりないからな。

 短縮詠唱の呪文足りえる。

 奴隷化の事実は伏せておく。

 裏切ったり、駒に必要な時は、容赦なく奴隷にしよう。


 相場で儲けたお金のほとんどが貸し付けに消えた。


「ラメル商会は物凄く儲かっています。安全な投資先はありませんか」


 ラメルに相談された。


「荒野の緑化が進んでる。何年か後には大穀倉地帯になっているはずだ。土地を買うんだな」

「ではそうします」


「貴族派とドンパチやるには人も金も何もかもが足りない。今回の麦の取引で相手はダメージを負ったが、大したものじゃない」

「次なる一手が必要ですね。こちらから何か仕掛けますか?」

「まだ早い」


 俺が困るのは、何だろう。

 訴訟かな。

 アーモに俺がやった手をやり返されたら堪らない。


 アプリの密輸も進んでいる。

 多少危険な橋を渡るのはやむを得ないが、隙になる。


 アプリの密輸から何とかしよう。

 たぶん国にはアプリの密輸はばれているな。

 ただ誰が関与しているか分からないだけだ。


 うやむやにするには輸出の合法化だな。

 俺は俺の派閥と、金を貸した貴族に、攻撃用でない魔道具は輸出できるように圧力を掛けた。

 もちろん教会にも手伝ってもらった。


 他の派閥にも魔道具生産で食っている貴族は少なからずいる。

 俺の要求はほどなくして通った。

 金はだいぶ使ったが、こんなのはアプリの使用料ですぐに回収できる。


 特に他国に美容のアプリを輸出してからは金貨が落ちてくる頻度が高くなった。


 だが、貴族派は黙っていなかった。

 魔道具大臣なる役職を作って、貴族派がそのポストについた。


 やるな。

 頭を抑えれば良いという事が良く分かっている。


 そして、その下の役職の半分が貴族派だった。

 もう半分は王族派。

 中立派と俺の派閥は締め出された。

 まあ、そうなるよな。


 俺がアプリを売って儲けるとそいつらが何もしなくても甘い汁を吸う。

 業腹だが今回は退いてやろう。

 アプリの輸出が合法化されただけでも、良しとしなくては。


 魔道具全般を輸出するのに税金が掛かるようになった。

 合法的に輸出できるのなら、何割か密輸で水増ししても良い。

 だが、ラメルの所をこれ以上使うのは危ないな。

 後で密輸ルートを何とかして開拓しよう。

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