第61話 秘密の会談と、傘下の商会と、液体化
今日は貴族派のグルト男爵と秘密の会談だ。
「本日はとか言わんでよろしい。社交辞令はなしだ」
グルト男爵はいきなりだな。
言ってほしい言葉は分かっている。
「たぶついている麦を買って欲しいんだよな」
1ヶ月も麦を買い占め続ければ、さすがに資金が底をつくか。
俺の領はまだ小さい。
人工が約3千人。
派閥から買った麦で十分やっていける。
こちらはいくらでも耐えられる。
「そうだ。貴族派にはもうついていけん。買い占めて相場を支配するのならまだいい。そちらの派閥に圧力を掛ける為の買い占めは先がない。はっきり言って、高値のいま売りたい」
「そうだろね。買うよ」
似たような話は全部受けた。
「ラメル、傘下を増やそう。他国に伝手があると尚いい」
「分かりました。商談の場を整えます」
商談の日。
「儲け話があるんだって」
「ええ、こちらはアフォガート領の領主様です」
「敬語は要らないよ。貧乏男爵だから」
「いえいえ、殺伐公のお名前はかねがね」
「それほど殺してはいないさ。殺したのは悪人だし。今日の話は投資したいという事なんだ」
「それはありがたい」
「株式を発行してもらいたい」
「それはどういった物で?」
「5割を超える株を持つと意見が通る。それと持っている株の割合で配当金が出る」
「なるほど」
「もちろん配当金は商会で自由に決められる。儲かってなければ0で良い。儲かっている場合は意見を言うけど、決定は株数が全てだ」
「それで男爵様は何割欲しいと仰せで?」
「4割かな。そっちは6割だ。ただし1人が持てるのは2割まで、子供とか妻達とかで分けると良い。もちろん配当は株を持っている人間にはみな払う。身内だからと言って誤魔化すなよ」
「ふむ、よくできた仕組みだな」
「それとラメル商会のアドバイザーを受け入れてもらう。アドバイザーにはこちらの株を持たせる」
「ふむ、いいでしょう」
「受け入れてもらえれば、最初のアドバイザーのアドバイスは、重さ軽減馬車だ。荷物が羽のように軽くなる」
「ほう、馬車と馬の消耗が少なくなりそうだ。利点は多そうだな」
「どうだ。投資を受け入れるか」
「受け入れよう」
傘下の商会はどんどん増えた。
そして、貴族派から買った麦で、領で食いきれない分はいっぺんに大量に放出した。
少し損はしたが、そんなのは問題じゃない。
それだけじゃない。
重力を軽減した馬車で他国から麦を買った。
代金として他国に売ったのは美容のアプリ。
それで、密輸の方法だが。
アプリを液体化。
extern MAGIC *magic_stone_init(void);
extern void magic_stone_liquefy(MAGIC *mp);
extern int mclose(MAGIC *mp);
void main(void)
{
MAGIC *mp; /*魔法定義*/
mp=magic_stone_init(); /*魔石を魔法に*/
magic_stone_liquefy(mp); /*魔石を液体化*/
mclose(mp); /*魔法終わり処理*/
}
これを使った後に、後で固体に戻す。
「美容のアプリの密輸は儲かりました。まさかアプリを液体にするなんて」
ラメルにそう言われた。
「魔石は石だという頭があるからな。液体にしておいて、後で固体にすれば良い。薬という名目だし、魔石の液体を飲んでも実害はない。調べられても何も出て来ないさ」
「ですね。魔石は体の中にある物、肉と代わりありません。試しに飲んでみろと言われて、飲んだ商人も、平気だったようです」
麦を国内で放出すると、麦の値段は暴落。
慌てた貴族派はもう後のまつり。
貴族派の結束は破れた。
もう買い支えられないからと言って売る貴族が続出。
俺は莫大な資金と共に底値で麦を買い漁り、高値になったら売るを繰り返した。
麦の相場は俺の手に握られた。
「上手くいきましたね」
ラメルがそう言ってお茶を淹れてくれた。
「貴族派と言っても一枚岩じゃない。付け入る隙はあるよ。1ヶ月耐えられたのが不思議なぐらいだ」
「城でもないのに兵糧攻めは現実的じゃないかも知れませんね」
「よし、今度は逆に貴族派が麦を刈り入れる時は、豊作の他国から仕入れて妨害してやれ」
「悪い人ですね」
「流通を支配すれば出来る事は多いんだよ」
「重さ軽減のアプリは傘下の商会しか使わせてません。傘下の商会は続々と増えています」
「あの株のアイデアは良かっただろう」
「ええ、株式の4割をこちらが買って、一見ただで金をくれてやったように見えます」
「だが、1割持っている人間を買収すれば、その商会はこちらの手に落ちる」
「ですね」
「安易に株式なんかにするもんじゃないな」
「でも評判は良いですよ。うちの商会は傘下に的確なアドバイスをして、儲けさせてます」
「それはそうだ。配当を取らないと投資した意味が無い」
「支配されて、配当を搾り取られて、まるで奴隷ですね」
「どこも資本金は欲しいんだよ。出資すると言えば飛びついてくる」
「甘い言葉には裏がある」
「そうだな気を付けないと」
「お館様は商売に明るいですね」
「やっている事は安い所で仕入れて、高く売れる所で売るそれだけだ。流通が発展してない世界だから出来る」
「まるで別の世界を知っているようです」
ギクッとした。
ラメルは薄々感づいているかも。
いやエクレアもか。
だが、言わないのだろうな。
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