第56話 教皇選挙と、土と、性転換
王都に来ると、教皇選挙は既に始まっていた。
4年に一度行われて、司祭以上の人物が投票できる。
司祭は各教会にいる為に場所が離れている。
郵送で投票するのだが、届かないなどのトラブルが頻発する。
届かない場合はやり直す訳だが、やり取りに時間が掛かる。
選挙戦はウエハス枢機卿とフレジェ枢機卿の一騎打ちとなっている。
寄生虫を殺すアプリだけでは弱いな。
「ラメル、地方で困るのは何だ?」
「水、食べ物、日用品以外ですと、畑ですね。争いになるのも、畑の土地問題が多いです」
水はアプリを作ったから、畑の土地が問題だろう。
辺境で暮らして分かったのだが、土というのは難しい。
肥料を撒いて種を植えて水があれば、作物が生るというわけではない。
畑に適した土というのがあるのだ。
山の土が、河によって土砂が運ばれ、平野になった場所なんかは大抵良い。
とりあえず、赤土を召喚してみようか。
extern int tax_collection(int money);
extern MAGIC *red_clay_make(float mana);
extern void red_ball_earth_convert(MAGIC *mp);
extern int mclose(MAGIC *mp);
void main(void)
{
MAGIC *mp;
if(tax_collection(1)==1){ /*税金徴収、銅貨1枚 金が無ければ、何も起こらない*/
mp=red_clay_make(1.0); /*36立方メートルの赤土*/
red_ball_earth_convert(mp); /*赤玉土にする*/
mclose(mp); /*魔法終わり処理*/
}
}
こんなアプリだ。
赤土は地中にありふれている。
土の事はあまり分からない。
前世で両親に頼まれて赤玉土をホームセンターから買ってきた記憶があるだけだ。
赤土は粘土になっている事が多いと聞いた。
それを覚えていただけだ。
石がごろごろしている土地ではこのアプリは有効だな。
両親の話では赤玉土は肥料分が少ないのだそうだ。
腐葉土や肥料を混ぜないといけない。
ウエハス枢機卿に赤玉土アプリを届けた。
彼なら上手く使うだろ。
神は争いを好みませんとかなんとか言って。
数日後、大勢は決したようだ。
「教皇就任おめでとうございます」
「赤玉土アプリは助かりました」
「教皇になられたのですから、敬語はお辞めになった方が」
「横柄な態度は神が諫められます。重ね重ね、赤玉土アプリは助かりました。あれが決め手になったと言えるかも知れません」
「そんなにですか?」
「教会には相談事が持ち込まれます。地方ですと畑の土地問題は頭の痛い問題なのです」
「それを聞いたからアプリを作りました」
「土地問題は大抵禍根が残ります」
「そうかも知れませんね」
「それが緩和されたのです。感謝の手紙が方々から届いています」
「お役に立てて何よりです」
「貰うばかりでは心苦しいので、何かしてあげましょうか」
「窮地に陥った時にほんの少し力添えを頂ければと」
「謙虚ですな。分かりました。その時は必ず」
4年限定だが、味方が出来た。
「同性愛の問題はどうなりました」
「難航してますね」
「ネックは何でしょう?」
「愛し合っているのに子供が出来ないという事が問題のようです」
「それなら性転換のアプリなどどうでしょう。同性のカップルの片方を一時期、別の性別に変えれば、解決する事も多いかと」
「いいですね。神は道をお示しになられたと言えそうです」
「性転換による忌避はないのですか?」
「魔法は神から授けられた力です。神のお力と言えるでしょう。暴力に使われて人を殺傷する事に比べたら、性転換は些細な問題です」
もしかして。
いや止めとこう。
これを聞いたら気分を悪くしそうだ。
教会の中にもそういう嗜好の方はいるのですかとは聞けない。
日本の昔の坊主もそういうのがあったと知っている。
「お役に立てて何よりです」
俺は笑って、疑念を誤魔化した。
「そう言えば、黒土のアプリは作られないのですか?」
「なにぶん詳しくない物で」
「花を育てるのに黒土は良く使います」
「作って納入します」
あれっ、粘土を召喚したら、焼き物が作れるな。
領地の産業に良いかもしれない。
熱は魔法で何とかなる。
でかい魔石が必要だが、窯も作れるだろう。
こういう産業の育成は追々だな。
時間がたくさん掛かるだろう。
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