第53話 非正規品と、越後屋と、海
買占めに対抗する為に、打った手は、これからは正規品の印をつける事だ。
今までのアプリは非正規品として、使うと寿命が縮まると噂を流した。
アーモの所が買い占めた商品を非正規品の欠陥商品としたわけだ。
俺にとっても利点はいくつかある。
前のアプリの使用料は安く買ってもらったところで一緒だ。
問題はない。
アーモの所にある商品の値段は上がらない。
欠陥品だからな。
とうぜんそういうふうに宣伝する。
買い替え需要が起こせる。
そして、始めたのは非正規品を二束三文で買い取る事業だ。
買い取った後は、正規品に生まれ変わらせて、印をつけて高く販売する。
そのうち焦れてアーモも安く俺の所に売りに来るだろう。
しばらく経ったある日。
「恐ろしい方だ」
商業ギルドの職員にそう言われてしまった。
「普通だろ」
「完膚なきまでに叩きのめしましたね」
「まあな」
「ですが、ラメル商会に対しての風当たりも強いのでは」
「そうだな。ちょっと前までは非正規品をラメル商会で売ってたわけだし。まあ、対策はしてある。ラメル商会の領収書を持っている奴はただで正規品に交換してやる」
領収書は保証書を兼ねている。
修理も受け付けているからだ。
普通の工房なんかだと、顔と商品で判断して、自分の所の商品だと修理する。
俺は領収書にその一筆を書かせたわけだ。
ラメルも画期的だとほめていた。
商会規模になると、いちいち客の顔は覚えてないからな。
領収書を無くした奴は馬鹿というしかない。
「正規品は前のより性能が良いのですよね」
「そうだな。買い替えさせるには高性能にしていかないと」
「隙がありませんね」
「俺がアーモなら訴えているところだ」
「どんな理由でですか?」
「不良品を売ったという事でだ」
「できませんね」
「そういう法律はないからな。物を見て買うのが当たり前だからな。物をちゃんと見ないで、買って損したなどは言えない。だから、俺がアーモなら法律を作らせる。でもって適用を過去にとする」
「無理でしょうな。混乱が起きるのが必須です」
「アーモの所の資金繰りはどうだ」
「商業ギルドでも不良債権扱いしてますね。ただ伝家の宝刀の爵位売りが残ってます。伯爵家ですから、高値が付くと思いますよ」
「商業ギルドはその権利を抑えているのだろう」
「もちろんです」
越後屋、そちも悪よのう。
そんな言葉が浮かんできた。
商業ギルドならお代官様ほどではございませんと言いそうだ。
「正規品の売れ行きはどうだ」
商業ギルド職員が帰ったので、俺はラメルに聞いた。
「怖いくらい順調です。交換作業も進んでます。たまに偽の領収証を持って来る人がいますが、台帳に買った日付と人と商品番号が記載されてますのでまず騙されません」
「あるとしても偽造が通るのは1回だけか」
「そうですね。重複はチェックしてますから」
「アーモの所は非正規品を売りに来たか」
「いいえ。ですが、アーモの子飼いの商会は軒並み潰れています」
「そうだよな売れない在庫を抱えたらどうしようもない」
「非正規品の価格は下がる一方ですし」
「正規品の偽物は出たか?」
「出てません。起動の時に一瞬現れる印は真似できないようです」
ホログラフィを使っているからな。
水蒸気に光を当てているだけだが、こんな簡単な事も出来ないとは。
「何か問題点はある?」
「懇意にしている商会がうちの真似をして領収書を発行してます。彼らの非正規品も交換してあげたいのですが」
「いいね。その商会とは仲良くしておけ。恩と人脈がいつ役に立つか分からないからな」
ピンチをチャンスに変える。
今回はそうなった。
まあ、俺は力がないからな。
強引に敵を叩き潰すわけにはいかない。
頭を使うしかない。
「よし、正規品大キャンペーンだ。正規品を買った客には、非正規品の下取りの値段を上げてやれ」
「分かりました」
「それと広告は途絶えさすな。ギルドとか人通りの多い所にはポスターを貼れ。ポスターのデザインには金を惜しむなよ。盗まれるぐらいなのを作れ」
「個人の家とかなら、一日銅貨1枚でもやってくれそうです。商業ギルドはかなり取られそうですね。ポスターのデザインは有名画家に頼みます。こうなると魔法で複写できるのが強みですね」
新聞も流行っているし、広告は問題ないだろう。
海までの道はどれぐらい出来ただろう。
そろそろ完成するはずだ。
魚食い放題か。
刺身が食いたくなってきた。
寄生虫の問題があるが、魔法で殺せるから問題はない。
そう言えば、魔王タイトの魔法の手引書に寄生虫殺しが載っていたな。
あとでアプリにしておこう。
教会に持っていったら喜ぶはずだ。
忙しくなってきた。
幹部を育てたい。
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