第51話 フェンリル討伐と、天使と、噂

 牛30頭を引き連れて移動だ。

 非効率だが仕方ない。

 現地の家畜は粗方が食い殺されるか、別の地方に逃がされている。

 現地調達が無理なら連れて行くしかない。


 フェンリル出没地域に入るに従って、牛を見る目が厄介者を見る目になっていった。

 牛がいるとフェンリルが現れるからだ。

 人間も食われるらしい。

 ただ、人間は肉が少なくて不味いとフェンリルに思われているようだ。


 家畜の被害に比べれば格段に少ない。

 だが、それも限界のようだ。

 家畜がいなくなったので、人間の被害が増えている。


「今回の討伐は我々にとってありがたい事なのですよ。助けを願う嘆願書が、信者からいくつも届いているので」


 道行の馬車でウエハス枢機卿がそう言った。


「無視するのも限界があると」

「国にやってもらうのが一番良いのですが、領主が弱腰でしてね。一度討伐に失敗していて後がない。国に軍を出してもらうと、自分の所は目一杯兵力を出さないといけないわけです。討伐に成功すれば良いですが、まあ無理でしょうな。私もあなたがいなければ、自殺行為だと思っていますよ」

「信用して貰えてありがたいですが、その確信はどこからですか?」

「盗賊討伐で味方に一人も犠牲者が出なかったらしいですな」


 ウエハス枢機卿も無能ではないらしい。

 俺の事も調べ上げている。

 盗賊討伐のあれこれを口止めはしてない。

 都市を作るので人が出入りしているから、情報は洩れる。

 仕方ない事だ。


「部下が優秀なもので」

「ご謙遜を。教会の弱腰にも参ったものです。ピンチの時ほどチャンスなのに。聖騎士はともかく教会騎士ぐらい派遣すれば良いものを」


「魔石が必要でなければ我々も討伐しないところです」

「これも神のお導きです」


 犯罪奴隷達が合流した。

 みんな人相が悪いので盗賊の一団に見えるだろう。

 何か対策が必要かな。


 でも1割は女だ。

 それでみんなの視線が和らぐといいな。


 2週間掛けて、現場の街に到着した。

 大きな街だが、人の出入りは少ない。


 牛を放し飼いにした。

 罠はこれでいいだろう。


「ウオオオォォン」


 一時間ぐらい経った時に遠吠えが聞こえた。

 来るな。


 青い毛並みで小山のような狼型のモンスターが現れた。

 ブレスは吐くと牛が凍り付いた。

 魔法で姿を隠している犯罪奴隷もフェンリルにはお見通しらしい。

 整列している犯罪奴隷達に冷気のブレスが吐きかけられた。


「今だ!」


 拘束の魔道具が起動され、石の枷が幾重にもフェンリルに絡みつく。


「神の裁きを!!」


 ウエハス枢機卿が叫ぶと、1000もの電撃が一斉に飛んだ。


「ウォン。キャイン」


 1000もの電撃に耐えられなかったらしい。

 フェンリルは死んだ。


「全軍、損害なし」


 軍団長が報告に来た。

 見物人はみんな祈っている。

 ウエハス枢機卿が電撃を放ったように見えたらしい。


 そしても天使のホログラフィーが展開される。

 ざわめきが大きくなった。

 枢機卿が頭に光の輪を授かり、ショーは終わった。


 さあ、貰うものを貰わないと。

 俺はフェンリルに近寄り、魔石を採った。

 毛皮は教会に譲るつもりだ。

 フェンリルの毛皮は丈夫なようだ。

 焦げ目一つない。

 だが、電気は防げなかったらしい。

 そうだよね。

 生物の体はほとんど液体だ。

 電気を通すように出来ている。


 金を払い犯罪奴隷をアフォガート領に帰した。

 奴隷達はみんなホクホク顔だ。

 楽に稼げたからな。


「ウエハス枢機卿、討伐おめでとうございます」

「これで信者がまた増えます。結構な事です」


「これからどうされます?」

「この街の教会に寄って、説教をしてから、帰ろうかと思います」

「では教皇になられる事を願っています」

「あなたの道行きに、神の御威光があらんことを」


 さて、海を目指すぞ。

 道を作りながらだから何ヶ月掛かるかは分からないが、とにかく準備は出来た。

 王都に帰ったら、指示の手紙を出さないと。


 王都に帰って俺を待ち受けていたのは、アプリの不買運動だった。

 アプリを使うと金だけでなく、寿命が取られるという事らしい。


「ラメル、情報収集は?」

「終わってます」

「対策は?」

「正反対の噂を流しましたが、効果無しです」

「そんな手でくるとはな」


 アーモ伯爵の策に違いない。

 新しい物は浸透するまで不安がつきまとう。

 安全なのか分からないので不安になる。

 そしてネガティブな噂に惑わされる。

 厄介だな。

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