第5話 金貸しと、アフォガート領と、貴族

 欠伸あくびしながら、門番に立っている。

 昨日、夜なべ仕事し過ぎたか。

 チャリンと銅貨が落ちる。


 エクレアはあの魔道具を使ってくれているんだな。

 銅貨を拾い嬉しくなった。


 門番仲間の視線が俺に集まる。


「むっ、何だ?」

「朝から銅貨を拾うとはついているな。そのツキを分けてもらいたいぜ」


 また、銅貨が落ちる。

 これは誤魔化せないな。

 門番は辞めるつもりだったが、これじゃ仕事にならない。

 今ある2000個の魔道具をばら撒いたら、絶え間なく銅貨が落ちるに違いない。

 俺は次にどうするかは決まっている。

 行動開始だ。


「実は近衛騎士を辞めようと思いまして、準備の為に半休を貰いたいのです」


 門番の責任者に挨拶した。


「おう、話は聞いている。長い間ご苦労だったな。厄介事があれば何時でも言ってくれ。力になるぞ」

「ありがとうございます。その時は頼らせて貰います」


 半休を取って俺は金貸しの所に行った。

 これから詐欺みたいな事をする。

 騙すわけではないから、問題はないだろう。


「ごめん。金を用立てて貰いたい」

「騎士様、いかほどでございましょう」


 でっぷり太った金貸しが揉み手で俺を迎えてくれた。


「金貨1000枚だ」

「それはまた大金でございますね。期間はどうなさいます」

「1年だ」

「そうなりますと、利息は3割ほどですな。それと、担保を設定して頂かないと」

「近衛騎士のこれからの給料を担保にするのでどうだ」

「よろしいでしょう。身分証はお持ちですか?」

「これだ」


 俺は身分証を出した。


「これは預からせて頂きます。では契約成立という事で」

「ああ、助かった。恩に着る」


 金貨を担いで商業ギルドに行く。

 金貨1000枚はちょうど子供の重さぐらいだ。

 箱が肩に食い込む。

 1年後は、毎日これぐらいの金が、落ちるようになるんだろうな。

 そう思うと笑いが漏れてくる。

 おっと、気を引き締めないと、これから一芝居打たないといけない。


 商業ギルドは銀行のような佇まいだった。

 俺はカウンターに行き。


「アフォガート領が売りに出されていると聞いた。買いたい」


 商業ギルドが爵位を売るなんて世も末だが、これには理由がある。

 アフォガート領というのはあらゆる点で終わった領地だ。


 まず、立地。

 領地は広大だが、荒れ地だ。

 作物が育ちにくい環境だ。

 普通にやっても食うか食わずの状況。


 そして、問題点。

 ゴブリンの大群が住み着いたのだ。

 作物がろくに採れないのに害獣がいたら、もう絶望的だ。


 どうなったかと言うと、ただでさえ少ない住民は、ほとんど逃げ出した。

 だが、王国は容赦なく税金を取り立てる。

 大赤字も良い所だ。


 アフォガート男爵はどうしたかというと借金した。

 そんなの返せるわけがない。

 で、商業ギルドが抵当権を買い取ったというわけだ。


 腐っても貴族の爵位。

 買い取りに現れる者がいるだろうと踏んで、売りに出した。

 もちろん買い取った者には爵位を継がせ、借金も継がせる。

 現在、買う奴はいない。

 不良債権も良い所だからな。


 俺というカモがそこに現れたというわけだ。

 即座に場が整えられた。

 よっぽど売りたかったんだな。


「こちらが、アフォガート領をお救い下さる。ラッカー殿です」

「わしは、金貨1000枚もらえれば文句はない」


 やせ細った人物がそう言った。


「商業ギルドとしては念のため事情を聴きたいのですよ。鉱物資源などありましたら、首が飛びますので」

「調べてもらったら分かるが、俺はアーモ伯爵から迫害を受けている。ほとほと嫌になった。だが、回避する手がある。貴族になれば、立場は対等だ。迫害も収まるかも知れない」


「どのように領を運営していくおつもりですか?」

「地道に再入植だな。それとゴブリン狩りだ。ゴブリンを狩って日銭を稼ぐ。ゴブリンは肥料になってもらう。近衛騎士だから、戦闘には自信がある」

「王道ですね」


「それで商業ギルドには借金の返済を待ってほしい。一年後には必ず利息分だけは払う」

「それは良いですが、きついですよ」


「アーモ伯爵の迫害に比べたら可愛いもんだ」

「ふむ、筋は通ってますね。どうですか男爵?」

「わしは文句なんぞない。金貨1000枚で再出発したいんじゃあ」

「では契約書にサインを」


 書類にサインをした。

 書類には前アフォガート男爵との縁切りも入っている。

 俺の借金を背負いたくないという事だ。

 養子になった瞬間に赤の他人になった。

 忙しい事だ。

 そして、王宮に行き、待たされて王様に対面となった。


「そちが、新しいアフォガート男爵か。わしも忙しい。税金さえ収めてもらえれば何も言わん」


 そりゃそうだろ。

 商業ギルドと話をつけて、直轄領に出来たのにしない。

 金を払うのが嫌だったからだ。

 文句なぞありようもない。


 襲爵しゅうしゃくの儀式はすぐに終わった。

 ふっ、賭けの第1段階に勝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る