第15話

 翌朝。


 そう、冒頭に戻る。


「なんで、なんで……君が……あ、あ、ありえない。なんで僕は裸? ……頭も痛いし気持ち悪い……酒を飲んで……そっから……あぁあああああああ」

「こっちが言いたいわ!」


 湊音もシバも全裸。シバも記憶にないがベッドの周りにティッシュが散乱していたのと余っていたコンドームのパッケージが散乱しており、数えると何枚か使っていたようだ。


 下腹部には痛みがないため自分がタチであったことはわかったシバ。その反対は経験がない。そのことで少しはホッとしている。


 反対に湊音はこのベッドの周りの状況から行為をしてしまったことに気づいたようだ。


「湊音先生、今後はお酒禁止だな」

 とシバは水を渡したが湊音は項垂れた。


「……そうします。シバさんは昨日のことは記憶にありますか?」

「途中までは」

「じゃあ記憶のある中で……僕を犯して?」

「あほう、お前に噛まれたんだぞ。こちとら」


 シバは左掌を見せると湊音は触る。もちろん記憶にないようだが。


「すまない……普段は酒は飲まないようにしてたんだ。こうなるから」

「やはり他にもこういう経験あったのか」

 湊音は項垂れ頷いた。


「……酒癖悪いからと周りから止められてたし、一度大量に酒を飲まされて……ああ、これは言うものではないな」

「なにか酷いことでもされたのか?」

「いや、これはちょっと。てかそれよりも!」


 湊音は床に落ちていたコンドームの箱を拾った。


「僕たちは、その……ほんとーにやってしまったのか?」






 台所でシバはジュリが作り置きしてくれたシチューを温め、それを朝食にすることにした。パンも置いてあり、これもジュリが置いてあったのだろう。湊音はシャワーを浴びて出てきた。


「美味しそうだな……見かけによらず自炊できるのか?」

「おいチビ、ひとこと多いぞ。これは人が作ってくれたやつだ」

「お前こそチビは失礼だぞ。そっちが背が高いだけだ」


 2人は睨み合う。

 が、シチューを煮ている鍋からボコっという音がなり、シバは鍋に目をやる。


「チビ……じゃなくて湊音先生は一人暮らしか?」

「学校以外では湊音でいい。僕は実家暮らしだ。お前……シバでいいか?」

「おう、学校以外ではな」


 お前と言われるよりかはマシだとシバは頷く。


「シバみたいにこうやって寮生活も満喫してみたいと思ったが……恥ずかしいことに身の回りのことをやるのが苦手でな」

「俺もだよ。今は生きるためになんとか……ってこれは自分の作ったやつじゃないんだが」

「なんだよ、褒めようと思ったんだが……ここに来てすぐ女を連れてきたか?」

「どあほ! 下の階のやつと一緒にすんな」


 湊音は笑った。


「知ってますよ、ここの寮の先生たち女連れ込んでますから。タクシーとかさぁ……よく朝練ですれ違いますから」


 まじかぁ、とシバは少し引いている。自分のことも言えないのだが。


「教職もストレス溜まりますからねぇ。給料はよいけども郊外ですし家族と離れての単身生活……発散できるのはそういうことだけでしょうね。僕みたいにスポーツ部の顧問でもないし」

「はぁ、だったら湊音先生も溜まってる……」


 湊音がまたギロっと睨みつける。


「……るっせぇ。剣道である程度発散できてる」

「はいはい、まぁそこ座って。朝ごはん出しますからねぇ」

「ちっ」

 シバは湊音の学校とでの態度が違うとかおもいつつも、軽くあしらってるのはシバも考えがあってのことであろう。






「うんめぇええええ」

 2人して同時に声を出してしまった。目が合うと湊音から逸らしたが、2人はすぐに平らげた。


「これ作った人すごいな……食材の切り方もいい加減ではない、奥からくる赤ワインの香り……」

 湊音は目をキラキラ輝かせた。

「お前も立派に褒めるんだな。あ、教師だからか」

「褒めてなんぼだからな。褒めても伸びない奴もいるけど」

「わかるわかる、俺も部下にさぁ舐められてばかりで。褒めてやっても聞いてなくてさ。褒め損」

「なめられそうな感じ、わかる。……これ作ったやつにうまかったと伝えておいてくれ」


 シバは湊音自身も直接言える相手だとと思いつつも頷いた。


「そいや今日はどうすんの?」

「……家帰って授業の準備だ」

「うぇっ……休みなのに仕事すんのかよ。仕事バカかよ」

 湊音はムスっとした顔で立ち上がって食べ終わった皿を洗い場まで持っていく。


「教師になると決めたら最後まで腹を括る所存だ。バカ、と言われてもいい……でも」

「でも? ……て、食器は俺が」


 湊音は首を横に降り食器を洗いながら話を続けた。


「……剣道部が、あの剣道部が廃部になったら教職は辞めたいと思ってるんだ」



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