第14話

 2時間後。フラフラとおぼつかない足元の湊音。ビール三杯でこの様子だ。シバの心配していた通りである。


「ほらこれだ……」

 シバは酒にめっぽう強い。そんな彼は湊音の身体を支える。なにかうごめいている。

「うおおおおおおっ」

「酒も飲めないのにストレス解消は酒だけかよ……女がいたらそっちで発散できるがな」


 ふと朝にシャワー室でみた湊音のアレの大きさを思い出す。


「あんな立派なものあったら女の子にモテモテだぞ。なんだったらツテで紹介してやっても……」


 すると湊音がシバに睨みつけた。


「女なんて嫌いだ!」

「へっ……嫌い?」

「この世にはろくな女がいない……種馬扱いする女、キープする女、騙す女……最低だっ!」

「それはたまたまお前が女運なかっただけであって……そりゃあ色んな女いるだろ?」


 珍しくまともなことを言うシバだが湊音はフラフラっと一人で歩いたと思ったら歩道に倒れ込みジタバタし始めた。慌ててシバは駆けつける。


「ちょっと、湊音先生! やだなあこいつ……」


 周りに人や車がいなかったことにホッとするシバ。街灯も少なくて薄暗い。


 シバは子供がおもちゃをねだるようにジタバタする湊音の急所をつき、黙らせた後抱き抱えた。


 ふと、もし生徒の親や知り合いにこの様子を見られたら信頼問題になるのではと何故か冷静にシバは考え、一旦自分の寮に帰ることにした。結構この辺りはすごくしっかりしてる。


 刑事時代に何度も酔っぱらいを宥めてきたことか、とまさか辞めてからも酔っぱらいを相手にしなくてはいけないのかと思うとうんざりしている。

 公務員や真面目な人ほど酒や欲に溺れるとダメになるケースが多い、自分も含めてと。


 部屋に戻り湊音をベッドの上に寝かせて靴を脱がしベルトとネクタイを緩めようとした時だった。

 下半身の膨らみに気づくシバ。


「おいおいこんな時もおっ勃ってるのかよー……わっ!」


 シバは湊音に腕を掴まれる。気絶してた湊音が目覚めたのだ。ものすごく目が据わっている。


「ここはどこだ? 僕を酔わせて何をする?」

「うわ、記憶失くしたか? 一緒に酒飲んでキムチチャーハン食ってた。したらお前はビール飲みすぎてグデングデンで帰り道に道路で横たわってジタバタしてたのは全く覚えてないのかっ!」


 シバは寮部屋の中ということを考え声を抑えて湊音に言ったが


「そんなの覚えてねぇよ! てか覚えてんのは元警察か元日本一の剣道の腕前かなんだか知らねえけどな、権力を振り回し、なおかつ更衣室で人様の体ジロジロ見てセクハラした野郎ってことだよ」


 と湊音は大声で返すものだから慌ててシバは口を塞ぎ、柔道の袈裟固めで湊音がベッドの上で暴れるのを防いだ。


「うううんっ!!! んんんんっ」


 と悶える湊音だがひとまわり体型が大きいシバにはやはり太刀打ちできない。


「くそ、チビの割にはかなり抵抗力あるな」


 だが長い時間保つことの出来なさそうな抵抗力にシバはさらに負荷をかける。


「うっ!」


 口を塞いでいた左手に痛みを感じ、シバは怯むが、意地でも離さない……湊音が彼の左手を噛んでいたのだ。

 湊音の抵抗力はどんどん弱まり、流石にこれ以上力を入れるとダメだと思いシバはゆっくり手を離すと


「うううう」


 今度はあの剣道室と同じようにベッドにうずくまって伏せて泣き出す湊音。


「まじか、今度は泣き上戸……」


 呆れるシバはシャワーを浴びに行こうとするが……。


「ふぇええええっ……ひとりにしないでぇ」

「お前、どれだけ迷惑かけてると思ってん……」


 その時だった。


 湊音は立ち上がり、泣き腫らした顔を見せたかと思ったらシバに抱きつきあっという間にキスをしてきたのだ。

「今度はキス魔?!」


 もちろんシバはすぐさま離れたがそれでも抱きつき、よがってくる湊音の強引さ……唇の吸い付き、舌の絡みに応えるしかなかった。


 次第にシバからも……。

「くそっ、なんで俺も反応しちまってるんだよ……」

 シバは押し倒した。


 そこで彼の意識は飛んだ。酒には強い方だったのだが。

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