お手並み拝見

第7話

 朝、眠い中シバは教員寮から出る。



 Tシャツにジャージ。刑事時代の剣道も朝早くから稽古がしたいとよく朝一番に行ったものだとシバは過去に浸るがその頃みたいに自分と互角に戦える相手はいないと思うと気が重そうな顔をしている。


 ふと振り返ると教員寮の一室から若い女性が出ていくのが見えた。その彼女を引き止めるかのように中にいた男が引き寄せてキスをする。あっちにはシバが見えていないようだ。シバはこれをいいことにこっそり木の影に隠れてみている。


「おい、ここの教員寮て単身赴任の既婚教師しかいないんじゃないのか? てあの女の荷物からすると妻とかにしてはカバンが小さいし靴もあんな足挫きそうなヒールの靴だからなぁ、駅まで歩くのは大変だからタクシーでも呼ぶのだろ。男の年齢からして年齢が違いすぎる……それにあんなに名残惜しそうに何度もキスをするから風俗嬢ではない」


 つい刑事時代の張り込みのように観察してしまう。2人はまだまだキスをしている。シバはおいおいと思いながらも見続ける。そして男が女を部屋の中に引き戻してドアはまた閉められた。


「こりゃ玄関でセックスパターンかよ。あの前言ったら声聞こえるかねぇ……朝から元気そうで何より」


 と言いつつも自分も反応しているシバ。


 スマホを使って校内に入るパスを通過して職員室に行き、その横にある制御室に行くと


「おはよ」

「うわっ……理事長かよ」

「2人の時はジュリでいいのよ。いきなり初日からあなた1人でやらせはしないわよ」


 ジュリが既にいるとは思ってはいなかったシバはたじろぐが、ジュリはそういう人間だとシバは1日で学習した。スマホから着信がなって確認するとメールだった。

 相手は瀧本である。


『ちゃんと仕事出来てるか? ジュリはあぁ見えて面食いだから気に入られたらしばらくは求められるから気をつけておきな』


 と。メールを見た後にジュリの方を見る。ジュリは微笑んでる。

 そういえば李仁を勧められた際も思ったが、瀧本は李仁とジュリとも関係があったのかとシバは瀧本のまたお下がりだと複雑な気分でもあるがその間にも距離を詰められて体をだき寄せられてキスをされていた。


 シバはさっきの男女のキスを見て気持ちが昂っていた。シバもキスを荒々しくして抱きしめてベルトに手をかけた瞬間止められた。


「こら、まずはお仕事しなさい。できるだけ今日一回で覚えて。簡単だから……」








「どう? 明日の朝から1人でできそう?」

「できるわけねぇだろ……こうやって毎朝いてくれよな」


 制御室から移動して保健室のベッドの上で2人はまた交わり、シャワーも浴びベッドの上にいるジュリから何度もキスをせがまれるがシバは慌てて着替えている。


「自主練の時間始まってるから。じゃあな」

「うん。じゃあがあったらまたね、よね」


 もうジュリに気に入られてしまったシバ。朝のムラムラは抑えられたものの初日から自主練に乗り遅れてしまったと焦って剣道室に向かうとそこには誰もいなかった。と思ったが中から湊音が出てきた。


「遅い」


 不機嫌な顔をして待っていた湊音を見たがふと振り返ると数人の生徒たちがトボトボとやってきた。

「なんだ、この覇気のないゾンビみたいなの……ってこいつら……」

 シバは思い出した。あのひったくり事件の時のことを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る