第8話

「湊音先生、なんすかこのヤンキーかぶれのおっさん」


 とゾンビのような人間……剣道部の生徒の1人が言った。

 おっさんという言葉にシバがカチンときたようで


「あん? なんだ……」

 と体を前のめりにする前に湊音が静止させた。


「宮野、この人は以前から募集していた剣道部顧問の冬月シバさんだ」


 宮野、と呼ばれた生徒を見てシバは確信した。あの時、ひったくり犯を捕まえた時にいたと。


「どう見ても剣道やりそうな気もしないけど……」


 宮野も何か思い出したようだ。だがシバは指を口につけてひったくり事件のことは内緒にしてて欲しいようだ。色々と面倒だからという気持ちもあるらしい。


 彼は背が高く体格も良い方だとシバは見ていた。しかしあの事件よりも前にどこかで見たことがあるとじろっと見ていた。そのため宮野はなんだこいつと睨んでいた。


「宮野はこの剣道部主将の二年生です。この体格の良さからパワーはあります。あ、ちなみに彼の兄も在学中はこの部の主将で成績も優秀、文武両道。あ、実のところ今警察に……」

「あっ……やっぱリィいいい」


 と即座に宮野のもとにシバが近づく。


「やめろよ、何だよ勝手に触るなよ」

「いやぁ、宮野ちんの弟だなぁ……そっくりだなぁ」

「なんだよ、宮野って」

「ちんったら、ちんなんだよー、兄貴に似てツンツンしてるけど本当はデレデレくんだろうなぁ」

「……兄はお前みたいな……あなたみたいなだらしない人ではないです」

「あぁ、そういうツンデレなところが宮野ちんみたいだなぁ、懐かしいなぁ」


 シバがニヤニヤそう言いながら宮野の体を触る。


「あなたは一体……兄のなんなんですか!」

「いやぁね、俺の部下なんだよね。君のお兄さん」

 宮野は後退りをした。


「えっ、こいつ警察官かよ。このボサボサ頭に髭ヅラ」

「うん、俺警察OB。一応警察内で剣道日本一」

「えぇ……まじか……」

 宮野だけでなくて周りの部員たちも信じられないようだ。


「一応全員部員は来てます。二年生4人、一年生3人、合計7人。三年生はもう受験のため指導の際に有志で参加しますがほとんどのものが関東の大学に行くため参加できないようです。主将宮野、高畑、星野、三浦この4人は小学から剣道経験者。そのほかの3人は高校から。三浦に関しては……」

 説明をする湊音に対して手を叩いてシバが止めた。


「まずは筋トレしましょう。走ろうか、とりあえず。校庭結構周り」

「はぁい」

 部員たちは活気がない。宮野もけだるそうにしている。


「おい、せっかくいい先生来てくれたんだぞ。警察日本一来てるんだからさ」


 湊音はそういうが部員たちは準備体操をしてから渋々走りに行った。


「湊音せんせ、こんなんなの? 部員たち」


 部員に遅れながらも準備体操しながらシバは聞く。


「……普段自主練ですから走らない生徒もいますし。いつも気だるそうにしてます。覇気がないんです。って、あなたも下の名前で呼ぶ気ですか」

「だって苗字なんだっけ、星か太陽か……」

「槻山です。まぁ別に湊音先生でもいいですけどみんなはそういうんで」

「なんでだ、湊音先生って呼ばれてるの嫌なの? 可愛いじゃん」


 可愛いと言われ湊音は顔を真っ赤にする。すこし早口めで言う。


「県の教育委員会に僕の父がいてこの高校でも色々と関わってるので名が知れてるんです。だから区別するために僕は下の名前で呼ばれるんですよ……」

「そうか、父親と比べられるのが嫌ってことか」

「うるさい、走ってこいよ」

「はいはい、あれくらいの速度なら追いつきますよ……って湊音先生も走りましょうよ」

「はい……」


 シバと湊音は生徒たちを追いかけるように走り出した。


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