雫27号…出生[完]

腕時計を渡した僕は

どうやって家まで帰ったのか

よく覚えていない


気が付けば

机に向かい、左手の指の

指紋を

指紋だけを無心に描いていた。


それは、僕にそっくりな

おじさんが見せてくれた

スケッチブックに書いてある

指の指紋と

形状が同じ傾向なのだろう


と、なんとなく思った。



帰宅して、台所にいた母さんに

聞こうとしたが、答えを聞くのは怖かった。

そのまま、何も言わず自室に入った。


自分で選択した訳ではないが…

と、

耳の後ろのスイッチで

まだ「めざめ」ていない時に戻る事はできないだろうか…


と思った。

遠くの方で秒針を刻む音がする


僕ははっきり覚えている

まだ、「しずく」だった時


※ウェヌスさんが

“アナタ達の旅は、また

これから、ここから、始まる。

愛され慈しまれ、大切な存在である事を忘れず、しっかり胸を張って前を見て歩み続ける様に。右耳の後ろに《振り返りのボタン》リスタートボタンがあります。苦しくて、悲しくて、悔しくてどうしても前に進めなくて立ち止まった時、迷ったその時を思い出しながらボタンを押して下さい。きっとそこに答えが見えるはず、です”


と、心の声を示しながら

ひとしずく、ひとしずくを優しく送り出してくれた。


※ 愛と美の女神


僕が悩んだ、というより

真実がそこにあるのなら、

もし、

誰も傷付けず事実を見る事が出来れば…

僕を大切に思ってくれている人達が悲しまない様に

誰をも責めなくて済む様に


誰も悪くないことは、分かる

僕の大事な人達を失いたくない



生まれた頃を思い描きながら、

リスタートボタンを押してみた



僕は、とても小さかった

保育器に入っていた

大人は、何やらニュースに

釘付けになっているらしい


隣りに寝ている小さな男の子も

保育器の中で弱々しく泣いていた


僕は泣きながら、時々

となりの保育器を見ていた

左隣りを見ていた。


いつの間にか、

そのコは右隣りになって

僕が寝ている間に

いなくなっていた…


ママの匂いが変わった。


いつも、ママは悲しそうに

僕を覗き込んで、よく泣いていた


その隣りのコがいなくなった時

ママの隣のおばさんも

いなくなった…


聞こえるはずもない人の声が

聞こえるはずもない保育器の中で

優しく優しく聞こえていた


“この子をお願いします

私もこの子も居なければ

主人は、やり直す事ができる“



“そしてこの子は、

貴女の子供として、父親も母親も

揃って育つことが出来る“


“貴女の悲しみは癒えないけれど

この子と幸せになって欲しい“


“私の大切な赤ちゃん

ずっとずっと、見守っています

幸せになるんですよ“


静かに静かに

遠い

トンネルの向こう側から


声が、


していた…。









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★選ばなかった道を過去に戻って選び直すオプション使ってみた。 月野あかり @okami-san

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