雫27号…出生⑤
…
母さん
何がどうなってるの…
この目の前の
僕と同じ顔をした人は誰…
僕は…
同じ顔のおじさんに
促されるまま、家に入った
化学の先生は
もう、小さな箱の中に
入っており、もう何も言わない。
外国に赴任している喪主で息子の判断で
簡易な一日葬を選び、アルツハイマーを
患っている母を慮っての事だった。
あまり大袈裟にならぬ様、忌中の札だけを
静かに貼ったという事だった。
おじさんが…
父は母を大事に
しており、アルツハイマーを
患ってからも施設に入れよう
とはせず、ヘルパーさんの力を
借りながら、自宅介護を徹底していた、
と話してくれた。
どうして、僕に
そこまで話してくれるのかな…
家の中には、あらゆる物に
名前を書いた付箋が貼ってあり、
電話・冷蔵庫・トイレ、写真立てにも、
ババ・ジジ
と、あった。
化学の先生は、ジジと、
呼ぶには早すぎる気もした。
「あの、先生から腕時計を
預かっています。あまりに高価な物なので、
失くしたりしたら、怖いし
早く返したいと思いましたので
大変な時なのに、来てしまいました。
すみません」
「そうだったんだね…わざわざ
ありがとう、でもどうして腕時計なの?」
僕は、
絵はとても好きで描きたい気持ちが、
いっぱいあって…
あり過ぎて、一部分だけを描くだけで
燃え尽きてしまう事
自分でもどうしようもなくて
ただそうして、幼い頃から
物の一部分だけを精密に描いてきた事
先生は、そんな僕に
「この時計を描いてみろ」と
…
おじさんに、
腕時計を預かった経緯を話した。
おじさんは、
「ちょっと待ってて、これでも食べてて」と言い残し、居間を出て行った。
出された最中を頬ばり、お茶を啜り
空腹だった事を思い出した。
余計にお腹が鳴った。
数分して、戻って来たおじさんは
何やらスケッチブックを一抱え
持って来て、僕の前に広げた。
「コレ見てみて…」
僕はスケッチブックを手にして
開いてみた
そこには、まるで僕と同じ
一部分だけを詳細に描いている
絵が、めくれどめくれど…
続いた。
…
分からない
こんな事って…
「君は幾つ?誕生日は?
…どこで産まれたの?親の
名前は?」
その後、僕はおじさんに
何を聞き、何を話したのか、
はっきりとは思い出せない
母さんに聞かなきゃ
何があったの…
僕の産まれた病院で何が起こったの…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます