雫2号…将来の夢②

中学生では、

チビだった身長も少しだけ伸び、

まぁ、

ちび過ぎて目立つ事は

なくなった。


チビでも体力、瞬発力

持久力もあった。


泳いだり潜ったりは、

必要だと根拠の無い確信

みたいなものがあったので

部活は水泳部に入った。


カナヅチではなかったが、

遠浅がずっ〜と続く入江を、

泳ぐ位で競泳をやった事がなかった。


遠泳は、やれる気がしたし

孤島の刑務所に、

潜入して入ったりしたら

泳いで逃げなきゃいけないとか、

ありそうだし…


そんな不純な動機から、

入部した。

紺のスクール水着は


泣けた。


確かに、少年の様な身体つきの

少女なんだから

水着はどうでも良いかと

自分に言い聞かせ、

その内、ボンドガールの様な

プロポーションになるんだ


と、

これもまた、根拠のない

思い込みに…


にんまりしていた。


入部してから、

一ヶ月も経たない内に、

中一部門の県大会で

学校代表になっていた。


走る様に早かった。

クロール(フリースタイル)

よりも

平泳ぎ(ブレストストローク)

の方が

自分の性に合っていた。

県大会で、

ぶっちぎり一位入賞だった。


この頃、

何でもある程度までは

できる事を実感していた。

球技も得意だった。


外国語の授業も始まり

スパイへの道は着々と、

進んでいた。


どこで、そういう情報を

入手していたのか…

ハッキリとは覚えていないが


近所に映画好きで物知り顔の

お兄ちゃんが、メガネをつまみながら

何かと教えてくれてた気がする。

今、思い出すと

結構、強烈なキャラクターだ。


教えて貰ってたのに…

なんか、

ごめん


何よりも

顔や表情には何も出さない

悟られない。

口はかたく、痛みにも強く

大義を貫く、精神力。


出来るのか…と、

フッと自信が無くなる事も

時折、頭をよぎりはした。



そんな時、

肝臓を長く患っていた父の病状が

悪化し、

あっという間に他界した。


身の回りが、一変した。

悲しみと絶望が家の中に

巣食い、

当然ながらアメリカへの

留学の道は絶たれた。


行きたかった学生寮のある

高校さえ難しくなった。


気が付けば

チビだった私はとても長身になり

髪の色も明るい色に焼け

よく見ると、目の色も明るい

ブラウンだった。

気付かなかった。


目立ち過ぎた。


これでは、色んな人を演じる

スパイには、不向きだと

悟った。


働く母と幼い妹を残し

アメリカとか渡れない。


高校も地元の普通校に通い

都心の外大を密かに希望

していたが、

母には言えなかった。


アルバイトをしながら、

地元の短大に通い、地元の

役所に就職した。


そこで、優しい人と知り合い

一人娘を授かり、

ずっとやりたかった茶の湯を

習いながら、ささやかな幸せと

穏やかな生活に埋もれ、

色んな思いは、胸の奥深くに

しまい込んだ。



一人娘は東京の大学に進学し、

夫婦二人になったところで、

クルーズ船に乗って旅行がしたいね


と、夢見たのもつかの間

優しい主人は、

知らぬ間に病魔に侵され、

元気だった筋肉質の肉体は

見る見るうちに、痩せ細り

膵臓を蝕んだ病巣は、

余命半年の告知通り、

手術も手遅れの状態で、

旅立って行った。


一人ぽっちになっちゃった。


そんな悲しみの中

ふと思い出した。


ずっとずっと、昔の

まだまだ、ず〜っと昔

この世に生まれ落ちる前


何か

誰かに

言われた気がする


何だったのか…

誰だったのか…


何を言われたのか

何を持たされたのか


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