雫2号…将来の夢①


ただ、負ける気がしなかった。

ただ、負けたくなかった。


漫才の様な言葉と

からかわれ笑われるのは、

関西の生まれ育ちなんで

本望だった。


ねちっこい無視は、

堪えた。

まだ、文句や悪口を

言われる方がマシだった。


無視は、心底

参った。


小学校2年生で田舎に引越し、

ばりばり関西弁の私を

受け入れるには、あまりにも


あまりにも…

田舎だった。


ずっと年の離れた妹が

出来るまでは、ひとりっ子で

伸び伸び育ち、やりたい放題。


好き嫌いも激しく、

って言うより

給食のミルクは、サイテーだった。


お昼は食べられたもんじゃない

と4時間目の授業が終わると同時に

学校を飛び出した。


毎日、昼ご飯は

ばあちゃんの家に直行した。

毎日、

走った。

毎日、

美味かった。


ばあちゃんの作る

煮っころがしは最高だった。

多くを言わない人で、

「給食はなかとか?」と

聞くけど

「ない」

…で、会話は済んだ。


いつも、温かくて、美味くて

優しいご飯を、並べてくれた。


その頃の遊びと言えば、

専ら近所のちびっこ達を

引き連れて山の中に入って、

基地を作って、

無人島と仮定し、サバイバルごっこ。


その頃に培った、動物並みの

臭覚と聴覚そして、

驚愕の視覚。


眼科では、両目とも米粒みたいな字も

読み分け、「その下があっても余裕で

見えるで」と宣言しては「サバンナ育ちか?」と笑われた。


何より、カルシウムたっぷりの

ばあちゃんのご飯が功を奏した。


足は早く、すばしっこく

既に足音さえ、消せた。


自然と私は、将来スパイになるんだと

確信していた。


小学5年生の頃には、

日本語以外の言語が、せめて

5ヶ国語は、話せる事

と、勝手に思い込み、

当然ながらそれぞれの

国の風習・タブー・マナーは

身につける。

と目標付け、勉強と言うより

勿論独学で、訓練に励んでいた。


大人になった今でも、

思い出すと笑えるのは、

独特な訓練方法。


動体視力訓練と称し、

足元に単行本を手下に、

パラパラめくってもらい、

何ページ、何行目、何段目の

書いてある文字を言い当てる。


クローバーが生えている

田んぼの畦道を

自転車で走りながら、

四つ葉のクローバーを

探し当てる。


老眼になった今でも、

四つ葉のクローバーが

見つけられるから不思議

訓練の成果か…。


バスに乗って、

電柱に貼り付けてある看板の

文字を暗記して読む。

これは少し、目が回った。


顔めがけて、飛んでくるゴム銃を

寸でのところで、かわす。

時々、顔に蚯蚓脹れ《みみずばれ》が増え

親に不審がられた。


この頃は、心配と言うより

不審がられる事が通常に

なっていた。


当時の電話は、

携帯やスマホはなく、

1家に1台、黒電話の時代。


電話帳をめくり一日50件の

家の番号を覚える

記憶力訓練も。


ついでに、住所も覚えた。


※この頃の電話帳は、

住所や姓名しっかり明記して

あったが最近では公開拒否や

未登録、そもそも固定電話が

ない所も多い。


当時の田舎には塾や

会話教室などという、

先進的なものはなくて、

訓練は、ほぼほぼ図書館か、

近所に何故か、

東南アジアの国々の言葉を

知っている、

ランニングにステテコの

出で立ちなのに暑苦しい

おっちゃんが路地のバンコで

年寄り相手に将棋を指しながら、

教えてくれた。


時々、英語も混じった。

時々、変な言葉も混じってた。


団扇で群がる蚊をはらいながら、

時折遠くを見つめ、一言一言

思い出す様に教えてくれた。


たまにはメモもしたが、大抵は口伝だ。


不立文字だと、難しい言葉も

教えてくれた。


そのおっちゃんは、

背中にすごく怖そうな顔

を描いてた。

そのランニングの下から

のぞく怖い顔の左目の上の所

に丸い傷があった。


その後、左目の上に傷のある

般若の顔が夢に出て来て、

何年もうなされた。


おっちゃんの顔は忘れたのに、

あの傷のある般若の顔は今も

しっかり、

目の奥に焼き付いている。

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