第21話
降り立ったのは砂浜だった。
朝日照り返す海原には船影が見える。ということは島じゃなさそう。当たり前か、前もそうだった。
宝箱に願った内容からして、ここが漁師一家の生まれ故郷かな?
昨日訪れた港街とはまた違い、今度は漁村的な雰囲気がある。砂浜に引き上げられた小舟に、広げられた網、干してある魚に海藻。
牧歌的な村だ。
ゆるゆると歩く老人、喧騒を響かせて走り回る子供、旦那さん並みの二の腕を持つ漁師さんと、そこそこに人影もある。
一見すると平和なのに、実は無実の罪でショッ引かれると言うのだから偉い人は怖い。
「どうしようかなー」
例のごとく宝箱は付いて来ていない。今度は幼女もプラモも無い。ジャージ姿の青年が一人。困ったな?
まあ無いものは無い、しょうがない。
せめてチョコレートでもないかとポケットをゴソゴソ。あるのは金貨とテイザーガンばかり。食べられない。
「いや金貨あるよ。これでなんとか……なるかな? 他国の貨幣は使えないとかいうそんなオチ?」
まあ、その時はその時だな。
とりあえず時間の経過に注意しよう。そもそも検証のつもりだったし。戻れないならないで、前回との違いも把握したい。
三日後に帰れるのか帰れないのか、それだけはハッキリさせたい。それにしても手ぶらって困る。今回は偶々金貨があったけど。次からはリュックを持参しよう。
まずは泊まるところと着替えから手に入れたいな。未だにビショビショなので。せめてお風呂入ってからにすれば良かった。
「ぅわっ、…………ビックリしたぁ」
方針を固めたところで、背後にある小屋から人が出てきた。驚かせちゃってすいません。
振り返ると、小屋から出てきた髪の薄いオジサンと目が合った。
オジサンが頭を下げながら言う。
「……あ、……お、お貴族様で? デルロ一家のことなら……未だに帰ってきていませんで……へぇ」
誰が魔物か。
「いえ一般人ですよ。旅の者です」
旅に出て五分程だけど。
目を白黒させるオジサンは、僕の格好を上から下まで何度も確認した。わかる。長袖長ズボンっておかしいよね。ビショ濡れだし。
「た、旅の? そりゃ…………ご、ご苦労さまで」
未だに語尾が丁寧な感じだ。もしかしたら怪しまれてるのかもしれない。長居は無用かな。
「すいません、ここって泊まれる所ってありますか? あと金貨って使えますか?」
「金……?!」
絶句するオジサン。どうも対応が港街の船乗りさんと違い過ぎる。マズい感じ。
「ああ、もう大丈夫です。自分で探すので。それじゃあ」
軽く手を振って、未だに目を剥くオジサンを置いて歩き出す。
村の規模はそんなに大きくないようで、これは最悪野宿の可能性も出てきた。
食事を済ませた後だったので、今日のところはなんとかなりそうだけど、明日も無しとかは勘弁して欲しいな。
そういえば旦那さんは連行されたとも言っていたから、近くに設備の整った街があるのかもしれない。
「じゃ、目標はそこでいいかな」
砂浜に足跡を残しながら、一先ずは村を出ることにした。
髪の薄いオジサンは、ずっとこちらを見つめ続けていた。
やはりそんなに大きな村じゃなかったようで、早々に村の入口っぽいところに着いた。
出入口は二つ、道は二本。
ほんとそういういいんだけど。いらない。
太陽の昇る方角からして、西か南かだ。帰るなら東の海に漕ぎ出ればいけそう。
どっちにしようか悩んでいると、荷車をロバに引かせるお爺さんが通った。南に行く方の道だ。
丁度いいから訊いてみよう。
「すみません、何処に行くんですか?」
「……あんた、見ない顔だなぁ?」
「旅の者です」
「旅の者って……こんなとこにかい? そりゃ無理があるだろ」
なるほど。そういえば昨日宿屋で冒険家だったって言う船乗りさんが断念したって話を聞いたね。それでか。
ロバの速度に合わせながら、歩きつつ会話を続ける。止まってくれる気配はない。やっぱり怪しまれてるのかも?
「あー、じゃあナイショなんですけど、実は賢者やってまして」
「ハッハッハ、賢者様か? そりゃあまた大きく出たな」
それでも話を聞いてくれるだけさっきの人よりマシな雰囲気。
「俗世に不慣れなんです。よかったら、ここを真っ直ぐ行くと何処に着くのか教えてくれませんか」
「いいよー。賢者様に教えごとなんて、こりゃ自慢にしかならんね。ここぉ、ま〜〜っすぐ行くと、領都『エウラン』に着くんさね。子供でも知ってることさー」
ニヤニヤと笑うお爺さんが何を思っているのかは分からない。『知ってるくせに』なのか『嘘だけどな』なのか。
まあいい。
領都って言ってるから栄えてそうだし。宿も着替えもありそう。
「そうなんですか。ありがとうございます」
「乗ってくかい? 半日掛かるがね。船じゃ無ぇからよー」
あー、それで。
どうりで誰も見掛けないと思ったんだ。基本は海路なんだろう。しかも半日。
「……お願い出来ますか?」
「いいよー。狭くてボロい荷台で良かったら。賢者様には失礼かもしらんがな、ハッハッハ!」
そう言って乗り込みやすいようにロバを止めてくれるお爺さん。
「あんたが煙のように消えても文句は言わんよ」
振り向いてニヤッと笑うお爺さんは、どうやら僕を狸か何かだと思っているようで。
「三日したら消えますよ」
なので事実をお伝えしておいた。
お爺さんの笑い声が海原に木霊する。
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