第19話


 大量のサンドイッチ、具はランダム。飲み物は牛乳とオレンジジュース。酒は無し。奥さんに怒られるのが怖いから。


 一心不乱に食事をする漁師一家。デジャヴュ。碌な食事を取っていなかったそうだ。そうか。やっぱり川にいる魚って釣れないですよね?


「あ、いや……許可無く入った上に、島の実りまでで奪ったら後が怖くてよ」


 がーん。なんのために釣り竿を置いていったのか。もしかして保存食とか必要だったかな?


 今後は一向に構わないと説明して食事を続ける。


 ご夫婦と同じ勢いで食べる幼女ちゃんは胃袋が凄い。勢い余ってテーブルに登ろうとするのを奥さんに幾度となく引き戻されてるけど。どうやら自分で選んで食べたいらしい。


 サンドイッチは耳付きで、半分に切って具はハミ出んばかりの大物。食べ応えがある。野菜のみのサンドイッチもあるけど、ガッツリ揚げ物を挟んだ物もある。幼女ちゃんはタマゴが挟んであるやつを気に入ったようだが、奥さんに渡されるのは野菜多めの物ばかりで不満気。表情は無表情だけど、雰囲気で読み取れるようになってきた。


 揚げ物に狙いを絞った旦那さんは、お腹の具合が大分落ち着いてきた模様。手前にあるのをひたすら取っていたから、選ぶ余裕が生まれてきた今は腹八分なのかもしれない。


 僕はハムとチーズが挟んであったやつを食べた。二個でかなりお腹が膨れたよ。三個目からはクリームが挟んであるやつを手に取る。デザートです、別腹別腹。


 何度となく謝罪を繰り返しても、お互いに頭を下げ合う展開になるので、結果オーライでこれからの事を話す。つまり船造り。


 宝箱に食べられての移動は色々と検証してからにするべきだろう。三日経つと強制的に無人島に戻されるって、よく考えたら酷いな。


「あ、賢者様…………こ、これが砂浜に落ちてて……もしかしたら直ぐに戻って来られなかった原因かもしれなくて……」


 一息ついて飲み物で喉を潤している最中に、奥さんがベッドの端に置いてあった何かを取り上げた。


 テイザーガンだ。


 そういえばあったね、そんなの。持ち方がおかしい。銃口が自分に向いてますよ?


「ありがとうございます」


 幸いトリガーに指が掛かってなかったので素早く受け取る。こういう時の下手な問答ってフラグ。大切なことはラノベで学んだ。


「い、いえ! 直ぐにお渡し出来なくてすみません!」


「やっぱり杖が無いと、魔法が上手く使えなかったりすんのか?」


 パタパタと手を振る奥さんの隣りで、旦那さんがテーブルに上がった幼女ちゃんを引き戻しながら訊いてくる。残念。バイバイ。ていうか君、まだ食べるの?


「そうですね。まあでも関係ないので大丈夫ですよ。これ、電気しか出ないので」


 しかも出るかどうかも微妙。


「デンキ?」


「えっと、雷です、雷」


「か、雷を生むのか?! それで?!」


 あ、これまた誤解されそうな展開だぞ。ご夫婦は共に目を丸くしてるし。幼女ちゃんはテーブルに必死に手を伸ばしてる。どうあっても食べる気のようだ。


「……はい」


 まあいいか。説明面倒だし。


「すげぇ?! やっぱり詩にある通りなのか? 天変地異を起こしたり、大きな魔物を生み出して操ったり……」


「怒りに触れると船を沈めたり……く、国を滅ぼす……なんてことも……?」


「なにそれ知らない」


 どんな神様かな? うっかりやらかして人間相手に手を合わせてひたすら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」って呟いてた女神じゃないことは確かだな。


「そ、そうか。全部が全部ってわけじゃねえのか……」


 全部違うよ。


「……良い賢者様なのよ。話半分に聞くべきだったわ……」


 奥さんが怯えてた理由が分かったよ。


「おあー!」


 はい、タマゴサンドだよ。


 本物の賢者さんがとんでも人物っぽいせいで怯えられてたよ。とんだ風評被害だ。こんなに温厚なのに。


 テイザーガンを宝箱に食わせておこうか考えたところで、ふと気付く。


 ……あれ? なんでこれ消えてないんだろう?


 そういえばテーブルに椅子、諸々渡しておいたサバイバルキットも消えてない。道具が消えないなんて……不思議なこともあるもんだ。


 いつぞやの建築材料は全部消えたのに。


 ……もしかして人の手に渡れば消えないとかなのかな?


 そういえば幼女のクリスタルの瓶も消えてないね。早く気付けよ僕。


 正直ゴミとかだと消えないから、割と意識してこなかった。未だに定期的に消える浴槽と衣服が問題と言えば問題。


 まあいいか。そういうこともあるある。


「じゃあ賢者様、あっこの木から切り出してくわ。で、川の場所は分かるから、そこで魚を獲っていいって話だな?」


「あ、待ってください」


 食後なのに早々に動き出そうとする旦那さんに待ったを掛けた。幼女ちゃんがまだ食べてるでしょうが。


 話は終わってないよ。


「材料はこっちで持つので、とりあえず三日待ってから作り始めてくれませんか?」


「……三日?」


「三日」


 それで消えなければ、たぶん大丈夫。


 でももし、その後消えたりした時は……。


 神様に謝ってもらう方向で。


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