第17話


 足の間に幼女を座らせて食事する。


 今日も快晴。海がキラキラいい感じ。


 幼女のために海老の殻を剥いてあげてると、上蓋に乗せた残骸を幼女がパクリ。バリバリバリ。殻を剥いて、乗せた、取った、バリバリバリ。


 まあいいか。


「はい、どうぞ」


「あああー」


 もう何言ってるか分かんない。


 中々に大きな身だったので、半分コしながら食べた。こうしたら食いっぱぐれることもない。海老、貝、切り身。切り身の手掴みは脂でベトベトになるね。タオルが欲しいや。


 浜焼きもいいなぁ。鉄板焼きしたい。大ぶりの海鮮にソースを混ぜて作った焼きそばを炭酸で流し込みたい。サザエとか大アサリとかに醤油を垂らしながら開くのを待っていたい。


 うーん、楽なのもいいんだけど、自分で作るのも魅力的かも?


 お好み焼きなら自分で焼く派なので。


 お腹いっぱいだ。偶には食べ歩きもいい。人混みは嫌だけど。


 食べ終わった幼女が、そこが居場所だとばかりに僕の体を登り始める。痛い痛い。その首はそれ以上曲げないで。


 幼女の体を抱え上げて再び肩車に移行する。


「じゃあ、帰ろうか」


「おあー!」


 凄く元気だ。興奮しちゃったのかな? お昼寝を期待してただけに、もしかしたら外歩きは失敗だったのかも?


 まあいいや。









「リンデロー王国のマハト?」


「そうです。ケネミア大陸を挟んで……すっごく、すっっっっごく! 遠いんですがー?」


 マジで?


 夕食を終えて、借りた部屋でまったりしていると調べ物をお願いしたメイドさんがそう言った。


 隣りの、更に隣りの大陸の果てにある港町、だそうだ。


 それだけ離れていると、さすがに交易してるわけもなく、冒険だったという爺さんが朧げながらに知っていたと言う。


「あらゆる海流の終着点と言われる大渦だそうですよー? 凄いですねー? なんでもシーサーペントすら呑み込むとか言われてるそうで……恐ろしいですねー?」


 近海にそんな場所があったんだ。島は穏やかなんだけどね。しかし海に魚がいない理由も、これで分かった。


「……見に行くんですかー?」


「あ、はい。行きます」


 むしろ逝きますになりそう。


 幼女のお世話を焼いているメイドさんが困り顔で唸っている。良い人だなぁ。


「でもですねー? そこの王国ってあんまり評判良くないらしいんですよ。お話を聞いたお爺さんも、当時はそれで断念されたとかで」


「税が重いとか?」


「出入国の管理が厳しいとか、荷物を取り上げられるとか、税も軽い重いがあるらしいんですがー、国民を奴隷として売り払ってるとかなんとか……なんか調べてるうちにあんまり良くない噂ばかり集まったもので……」


 忠告というか引き止めようとしてくれてるのか。本当に良い人だな。


 しかし困った。ちゃんと帰れるルートってあるのかな? そもそもちゃんと帰れたとしても、漁師親子が島を出て、国を抜けられるのかっていう問題も出てきたぞ?


「でも用事もあるので、行かないわけにはいかないんですよ」


「あー……それは失礼を言いましたー」


 いえいえ。


「できるだけ短い日数で行きたいんですけど……どういうルートを辿ればいいんでしょうか?」


「むふー。お任せあれー、調べてますよー?」


 眼福。


「まずはですねー? この街を船で出て、ケネミア大陸まで行きます。ケネミアの陸路を行くなら北回り、海路で行くなら南から他の港街を経て反対側まで行った方がいいですねー。どちらも時間は変わりません、大体ですがー……四ヶ月ぐらい、ですかねー? その後、船で一ヶ月。ようやくテセトア大陸に到着します。港はリンデローじゃないそうなので、そこからはまた陸路で隣国のリンデローへ。どれくらい掛かるのかの予想は付きませんがー、ここもかなり掛かると思った方がいいですよ〜?」


「それは困ったな」


「困りものです〜」


 まあいいか。


 行かないという選択肢は無いわけだし。大体一年を目安に島へ帰れば。


 そうなると旅費が問題になりそうなのだが、メイドさんが脅すには金貨十枚は覚悟した方がいいとのこと。良かった。足りそう。


「まあ、大体の目処が付きました。ありがとうございます」


「……よっぽどの要件だと思うので聞きませんが、命掛けになると思いますよー?」


 まあね。ちょっとした誘拐しでかしちゃってるから。仕方ないね。


「頑張ります」


「ここなら安全に暮らしていけるんですけどね〜」


「永住を薦めてますか?」


「大儲けですね!」


 さすがに冗談かな。だよね? なんて良い笑顔なんだ。誤魔化されてもいいかも。


「ここは治安とかいいんですか?」


「はい〜、もうバッチリですよ。ここは領主様が冒険者からの叩き上げですからねー。それだけ荒くれもいますけど、悪い意味じゃないと言いますか、海の男って言いますかー」


「あー、わかります」


 古道具屋に案内してくれた船乗りさんも強面だったけど良い人だった。強面だったけど。幼女ちゃんよりビビっちゃったけど。


 メイドさんの我が街自慢を聞いていると、どうも漁師親子が住むには良いところだと思える。


 片道キップになりそうだけど、帰ったら提案してみようかな?


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