第14話


 暗くなったのは一瞬だけだった。


「…………おお」


 目の前には海が広がっていた。


 ただの海ではない。


 漁港だ。


 太陽の光を跳ね返す海が輝き、ゆっくりと行き足を付ける船が帆を張る。同じ海なのに砂浜エリアとはまた違った趣きがある。カモメのような鳥が船の間をすり抜け、跳ねた魚を咥えていく。銅鑼声を張る船乗りが慌ただしく動き、港に停泊せんと錨を降ろし縄を放っている。


 行き交う船の数はパッと見ただけでも多い。大した規模だと思う。


 水平線に消える帆船、見えてくる帆船、船ばかり。一隻ぐらい貰えないかな? 旦那さんの苦労も無くなるんだけど。


「あ。そういえば……」


 周囲を確認するばかりで気が付かなかったけど、両手にはしっかりとした存在感。


 幼女とプラモデル。


 なんかのタイトルみたいだな。


「怪我は無いかな?」


 ムッツリと口を閉ざす幼女は、しっかりとクリスタルの瓶を抱えていた。もしかして穴から中々抜けられなかったのは、それを抱えていたからかな?


 もう片方の手にはプラモデル。未完成品。しかし三日目だというのに消えてないから、多分セーフの品。宝箱の不思議。


 抱え続けていると、幼女がバタバタとバタ足。降ろして欲しいのか遊んでいるのか微妙なところ。


「そうだね。食事にしようか?」


 ピタッと足を止めたので正解なんだろう。


「それじゃあ……」


 幼女を地面に降ろして振り返る。


 あれ? 宝箱が無いな?


 空いた手でポケットを探るも目的の品は見つからず。


 代わりと言ってはなんだが、後ろでは樽やら木箱やらを運ぶマッチョな船乗りが行き交っていた。半袖半パンにバンダナって。すげぇ。イメージ通りの船乗り。


 どちらかというと海賊。これフラグ?


 その中の一人が足を止めてこちらを見ている。目を眇めて首を傾げる様は『あれ?』といったところ。


 ガラガラと台車を押しながら近付いてきた。


「お前ら……いつからここに居た?」


 随分と気さくな感じで声を掛けられたけど、内容はこちらも不思議に思っていること。


「ついさっきです。船で来ました」


「そ、そうか? なんか突然湧いて出たみたいに見えたんだよ。悪かったな」


「いえ、これだけ大きい人が多いと、僕らなんて見落としてもしょうがないですよ」


「おう。あんまりウロチョロすんなよ? 誤って海に落ちても助けてくれる奴なんざ滅多にいねぇからよ」


「気をつけます。ところで、なんか珍しい物品を買い取ってくれるところってないですかね?」


 食事したいのだ。


 船乗りの視線が幼女の持つ瓶と僕の持つプラモデルを行き来する。


「あ〜、まあここにゃ色々集まるからなあ。あんま高く売れなくてもガッカリするなよ?」


 良い人に当たったなあ。









「うむむむむむ」


 船乗りさんの案内で来たアンティークショップっぽいところ。色んな道具や貴重品を取り扱っているらしい。


 虫眼鏡でプラモデルの細部を確認する店主さん。目利きには自信があると小バカにしたような笑みを浮かべていたのは最初だけ。


 プラモデルの値段を付けきれないでいる。


「これは間違いなく翼を模している……人型の……しかしこの顔はなんだ?! 古代アラハブムに存在したという神の像に似てると言えば似てる…………片翼なのは、堕天を表してるということか?!」


 あ、そこ未完成です、とは言えない。


 幼女はクリスタルの瓶を抱えたままお店をフラフラしている。


 僕も一緒に回りたいけど、さすがに買い取りをお願いしてる身で目を離すわけにもいかないだろう。早く終わらないかな?


「……………………金貨五枚」


 チラリと見上げてきた店主さんは、酸っぱいのを我慢してるような表情だった。


「わかりました。他に行きますね?」


「待て!」


 プラモデルを拾い上げようとしたところ手を突き出された。別に値段の釣り上げとかじゃなく何軒かリサーチを掛けようと思っただけなのだが。


 それが店主さん的には良くないらしい。


「………………………………十枚ならどうだ?」


「他に行きます」


 とりあえずリサーチ掛けるだけだから。それが正規の値段かも分かんないし。


「待て! 触るな! 金貨二十……いや二十三枚出そう! 他じゃそこまでの値段は付かんぞ?! 自信を持って言える、儂のとこだけじゃ!」


「……………………わかりました」


 ちょっと溜めたけど、一昨日思い付きで作ったプラモデル(未完成品)にそこまでの思い入れなんてない。雰囲気だ。むしろ完成させるのにダレていた感あるし。


 金貨ってすげぇ。この店主さんの目は節穴だな。


「よし! 直ぐに用意する! そこを動くなよ? もう契約は成ったからな? 金を持ってきての取り消しは無しじゃぞ?!」


 振り返り振り返り店の奥へと消えていく店主さん。どんだけプラモデル好きなんだよ。


 トコトコと戻ってきた幼女ちゃん。残念。お店探索は終わったようだ。もしくは近付くタイミングを計っていたのかもしれない。


「なんか欲しいものあった?」


 ムッツリとした表情で隣のソファーによじ登る幼女の手助けをしつつ訊いてみた。


「…………あーう」


「うんうん、だよねー」


 何言ってるかサッパリ。


 『変なところに連れてきてんじゃねえよ!』って言われてないことを祈っとこう。


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