第13話
「船を作ろうと思ってるんだ」
随分と前向きな発言が旦那さんから飛び出してきた。
座る位置を奥さんと入れ換えて旦那さんと喋っている。
というか微妙に奥さんが僕から距離を取っているように思える。警戒してるのかな? 幼女ちゃんのお世話をしながらパンにジャムを塗っている姿からは想像できないけど。考え過ぎかな?
「だから……すまねえ賢者様。森に入る許可と、木を切る許可を貰いてぇんだ」
「許可します」
そもそも僕の許可がいるのかも分からないけど。
驚いた様子の旦那さんを尻目に牛乳を飲む。あ、ヨーグルト食べたくなったな。デザートはヨーグルトでいいかな? アロエが入ったやつ。
「い、いいのか? 随分と図々しいこと言ってると思うんだが……」
チラリと奥さんを確認する旦那さんから、なんらかの話し合いがあったのだと推察された。止めに入って来なかったしね。
「ジャンジャン使ってください」
「そ、そうか……すまねえ、恩に着る」
「いえ大丈夫です」
そこは着なくていい。
自主的に出て行ってくれるというなら万々歳だ。別に住むと言われた時の対応も考えてたし。なんなら船を出してあげようとも思っていた。三日目に消えて、最悪海のど真ん中に放り出されることを考えて却下したけど。
木材を出すとかでも、やっぱり『三日』の法則がネックになる。消えない条件も未だ分かっていないから。
「はあ……賢者様ってーのは、ほんとに大したお人なんだなあ」
一般人に近いよ?
「それより船が出来るまでのことを考えましょう。直ぐに出来上がるわけじゃないですよね?」
「だろうなあ。俺も作るのなんて初めてだからなあ」
「凄い不安になりました」
「なーに、大丈夫、大丈夫! 何年海に生きてっと思ってんのよ? 船のことなら隅から隅まで知ってるぜ!」
船造りと船乗りって別物だと思うんだけど。絶対大丈夫じゃない。どうしよう?
「通り掛かる船に乗せて貰うとかはダメなんでしょうか?」
「いやー……いやー……?」
旦那さんが顔を上げて大海原を見た。そうだよね、ここ船なんて通らないもんね。
これは本格的に帰す手段を考えて上げなきゃ、沈没が目に見えてるな。
一先ず生活に必要な物資を宝箱に出して貰い、旦那さんが船を作るのに必要そうな道具を揃えることを約束して洞窟に帰ってきた。
テントとトイレ、非常食に釣り竿なんかだ。火種も必要だろうからライターを渡しておいた。珍しがってはいたけど、驚きは少なかったので似たような物があるのかもしれない。川があることも伝えたので、釣りに出ることもあるだろう。
どうしよう?
大岩で入口を塞いだ洞窟の中で、アニメを観ながら良い案はないものかと悩んでいる。
もうモーターボートでも出して旦那さん達を送って上げればいいと思う。
「乗りこなせるか不安だけど」
乗ったことなんてないからな。無免許だけどイケる?
そして、不安もそうなのだが、煩わしさも勝っている。
処刑される手筈だった一家なのだ。よもや国には帰れまい。
となると、何処か別の国、というか居場所を見つけるところから始めなくてはならないだろう。そもそも指名手配とかされてないのかな? 脱獄犯に近い状況だと思う。罪の正否はどうあれ。
すごい面倒だな。勿論旦那さん達のことがじゃなく国がだけど。
「……『あの一家が安心して暮らせる場所』」
宝箱に手を乗せて訊いてみた。
通常サイズの宝箱がパカッと開く。出てくるの?
しかし開いただけで何かが飛び出してくることはなかった。この宝箱なら空飛ぶ島ぐらい出してきそうな気がしたんだけど。さすがに無かったか。
そのポーズはなんだろう? 『お手上げ』かな? 宝箱に手は無いから蓋を開いたよ、的な?
「ふーむ?」
考え事をしてる内にアニメが終わっていた。見返すことにしよう。やっぱり集中しなきゃダメだな。
「うん?」
リスタートボタンを押そうとしたら、何処からかパラパラと土が落ちてきた。もしかして崩れるのかな? ピンチ?
音源を確かめようとライトの光度を上げる。
明るくなった室内で音がした壁際を見ると、そこにはお尻が生えていた。
うん、お尻だ。
「幼女ちゃん?」
大きさで当たりを付けて呼んでみたけど、そもそも幼女ちゃん呼びは心の中でしかしたことなかった。
お尻から片足が生える。ジタバタと土を落とすのに一生懸命だ。
いや危ない。落ちるよ? なにしてんの?
もう片方の足が生えたところで壁際に手を伸ばした。穴から出ようと藻掻いている幼女の脇に手を添える。出たら落ちるから。
しかし心配虚しく幼女が勢いよく飛び出してくる。咄嗟に受け止められたのは手を添えていたおかげ。
ただバランスは崩した。
押されるままに体重が後ろへ。倒れまいとテーブルのプラモデルか何かを掴んだ。プラモデルだ。意味ない。
結果むなしく――――ズボッ、と宝箱の上に尻餅を着くことになった。
これ、壊れたりしないよね?
開いていた宝箱にお尻が挟まった形だ。片手に幼女、片手にプラモデルを持って。なんじゃこりゃ。
そして次の瞬間。
バクン、という初めて聞く音と共に――――目の前が暗闇に包まれた。
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