第5話


 砂浜の上に設置したソファーで目を覚ました。


 輝きを主張する朝日が水平線から顔を出している。


「凄い光景だな」


 なんか贅沢。


 その景色とは裏腹に目覚めはイマイチだ。まだ眠いのに太陽光が凄い。強制目覚まし。めっちゃ眩しい。


 結局砂浜で一夜を明かした無人島生活三日目。


 砂浜は自宅と同じ環境となっている。


 体を起こしてテーブルの上を片付けるべきかどうか悩む。そもそも片付けるってどうしたらいいの? 整理整頓?


 初日の海苔弁のゴミも未だに砂浜に残っているというのに。埋める? もしくは燃やす?


 あの建設途中のような角材もどうしたものか。


「あれ? 無くなってるんだけど」


 山のように積まれていた角材が忽然と消えていた。まさかの盗難だ。ありがたい。


 普通なら第三者の存在を疑いそうなものだけど、残念ながら無人島。いないんだよね、犯人。


「とりあえず帰るか」


 ボソリ呟いてソファーから立ち上がる。結局ゴミだけ纏めて持ち帰ろうと片付けを始めた。気付いた。箱に入れてみよう。


 目覚めると等身大のサイズに戻っている宝箱。


 手を乗せて一言。


「イケる?」


 パカッと開いた蓋に『任せろ』という意思を感じた。そういうことにしておこう。ただの言いなりだと思うのは精神衛生上良くない。


 ガラガラとゴミを宝箱に納める。すげぇ字面。文字にしたら『こいつ何言ってんの?』って思われそう。


 片付けを終えた宝箱をポケットサイズにして収納。ソファーとテーブルは残した。意味はある。持ち上げるのが無理。


 再びの森探索に、結構運動してるという感想。


 今日の運動はこれで終わりで良くない?









 帰ってきた。


 砂浜からなら割と迷うことなく洞窟に行ける。隠れ潜むには良いポイントなのかもしれない。


 洞窟の中は空っぽだった。


 ソファーもテーブルも無くなっている。おいおい。


 再び吐き出して貰ったソファーとテーブル。今度はベッドになるタイプとローテーブルにした。


 寝転がりながらダラダラするために。


 色々と検証が必要な気がする。


 しかしそれは明日からでも良いと思う。時間はたくさんあるんだし。やることないし。怠惰だし。


 「あんた怠惰ぁ? ほんとに怠惰ね」と言われない限り行けるとこまで行こう。これは自身への挑戦だ。誰も見ていないからこそチャレンジする価値がある。


 限界までいこう。


「……必要なのは、スマホとノイズキャンセリングヘッドホン、テレビとゲーム、残る一つが……iパッド」


 僅かな沈黙を経て、再び宝箱の蓋が開く。


 仰々しく言ってみたのは微妙に呆れられてる感じがしたからだ。そんなわけないけど。無機物なんだし。これが擬人化脳ってやつかな。


 とても無人島生活には似合っていないブツは、しかしちゃんと完品の状態で吐き出された。


 状況にそぐわないとダメということもないらしい。


 部品から来るという予想は覆された。


 なら楽しもう。


「…………あ、ダメだ」


 しかしスマホを立ち上げて早々に断念。


 通信系アプリが立ち上がらない。


 もしかしてあっちの世界との通話も可能なのでは? なんて考えていたのだが普通に不通。そもそもアンテナが圏外表示。


 ゲームもオンラインは無理で、iパッドもスマホの二の舞を踏んでいる。


 電源も無くテレビが点いたのは置いといて。


 これじゃあネット対戦は無理のよう。


 まあいいか。


「DVDプレイヤーと接続端子、あと音響機器? も、お願いします」


 大画面で映画を楽しめるなら。


 今度はノータイムで吐き出されたプレイヤーにテレビとの接続端子を繋ぐ。音響機器凄いな? 知らないやつだ。どう繋げばいいのかも分からない。そもそも配線とかない。短距離無線式かな?


 カチャカチャと洞窟の中で遺跡のトラップを解除させるような音を響かせて音響機器を弄る。ブー! という音はなんなんだろう? 壊れたのかな? 間違ったのかな?


「おかわり」


 再び吐き出された音響機器に今度は間違わない。壊れた方のは洞窟の奥に放置しておこう。ハウリングが怖いからね。


「よし、いい感じ」


 出来上がった音響設備に満足。ソファーを広げて、ローテーブルに食べ物を設置して、プレイヤーの蓋を開いた。


「何を観ようかな? またアニメでもいいけど。折角の設備だし、なんか映画がいいな。『オススメ、映画』」


 宝箱に手を乗せて検索を掛けてみる。


 ペッ、と吐き出されるDVD。出来るんだ。


 吐き出されたDVDの裏面を読む。邦画。


 無人島に攫われた主人公が同じような境遇の仲間と騙し合ったり助け合ったりするやつらしい。ふむ。


「他意は無いんだよね?」


 宝箱は沈黙している。宝箱だからね。


 まあいいか。


 視聴してみよう。


 見終わった。


「面白いな、これ。続きってないの?」


 寝そべりながら宝箱に訊いてみた。


 宝箱は黙して語らない。


 続編が出ていないのか、頼み事だと思われなかったのか、どっちかだろう、きっと。


 確認はしないけど。


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