第3話


 自分の身長ぐらいのロングなソードが出てきた。


 無駄に凝った演出で。


 箱から冷気を吹き出しつつ、柄からゆっくりとせり上がってきたロングなソード。


 柄頭には宝石のような赤い石が嵌め込まれていて、装飾は金ピカ、刀身には曲線で描かれた波紋があった。


 ピリピリと空気を震わせて、全力で『手にしろ』と訴えかけてくる。


 僕は誘われるがままに柄頭を握り――


 そのまま箱に沈めて蓋をした。


「こういうのじゃない」


 もっと普通ので。


 如何にも『魔王様、いま会いに行きます』的なやつじゃなく。


 沈黙を決めた宝箱に説教を垂れる。もうダメかもしれない。いやもうここにいる時点でダメだろうけど。


 そもそも扱えない武器を持ってても仕方ないな。


 何か適当な物で代用しようと周りを見渡したら、建材の中に良いものを見つけた。


 釘を打ち付ける用に吐き出された、片手で扱えそうな金槌があった。


 これでいっか?


 金槌を握り、ブンブンと素振りしてみる。


 何気に金槌を全力で振り回すとかしたことなかったから、意外と振り回される。しかしそこに逞しさを感じる。これでいこう。


「サイズ変更……出来る? 出来るんなら手の平サイズでお願いします。ポケットに入るぐらいなら尚良し」


 金槌片手に宝箱に話し掛けた。完全に無機物を脅している図が出来てしまった。無人島で良かった。


「…………おお」


 了解したとばかりにシュルシュルと縮んでいく宝箱に感動する。海苔弁が出てきたことよりも驚きだ。手品っぽさが無いからかな?


 本当に片手で握れるサイズになった宝箱を拾い上げてポケットに入れる。最初からこのサイズなら重さを感じることもなかったのに。ストラップだと言われても違和感がない。


 砂浜に残した靴下とスニーカーも装備。


 金槌片手にジャージで見知らぬ森の中へ入る。自殺志願ではない。宝箱を過信してるわけでもない。


 そういう約束だからだ。


 『安全』を強調したので、危ない生物は住み着いていないと思う。じゃあ金槌はなんなのか。自称神様のダメさ加減を思ってだ。


 ――しかし意外なことに約束は守ってくれているようで――


 森の中に動物は皆無だった。


 小動物も含めて。


 どう見ても何かいたであろう土に空いた穴ぼこ、何かが横たわっていたであろう茂み、何かが爪を研いでいたと思われる木。


 其処此処に生活の後は見つかるのだが、肝心の主の姿が見つからない。


 安全な場所を見つけてくれたというよりか、安全な場所にと考えた方が良さそうだ。


 血の跡や食い残しが散らばっているということもない。


 衛生環境も整えてくれたのかな? ありがたいけど大丈夫?


 割と生態系が崩れるというか生態系が無くなってそうな感じだが、……この島限定かな?


 やらかしそうな自称神様を思うとちょっと心配である。


 まあ、僕が生活する分には良いので感謝しかないけど。


 島はそんなに大きくないようだ。


 三十分も歩くと反対側に出てしまった。


 反対側は砂浜じゃなくて岩場だった。


 結構な庭付き一戸建てを貰えたようで。


 別に火山帯ということもなさそうなので、島の中心に住んでみようと思う。


 森に危ない虫や動物はいないのだが、そのまま食べれそうな果物やキノコなんかは残っている。


 まあ、食べないけど。


 とりあえず雨風を凌げそうなところを探そうと森を彷徨くことに。


 するとちょっとした洞穴を発見したので入ってみた。


 明らかに先住している獣がいそうな洞穴だったが、中には何もなかった。


 本当に何もない。


 巣穴っぽさも無ければ生活感も無い、虫もいなければ糞も無い。


 ただただ刳り抜かれたような洞窟だった。


 処理が面倒になって刳り抜いたとかだったらどうしよう。


 …………まあいいか。


 便利だし、ここに住めば。


 洞窟は僕が立ち上がっても頭をぶつけることがないくらいに高く、また広かった。


 よほど大きな誰かが住んでいたのだと思われる。


 土を固めた、というか固いところを掘って作ったような洞窟で、虫が這い出してくるということは無さそうなのだが、寝転がるのは無理だろう。


 というか絶対に体が痛くなるやつだ。


 じゃあまずはベッドを取り出そうかな。また組み立てるタイプでもベッドぐらいならなんとかなりそうな気もするし。


 最悪寝袋で。


 快適空間を目指してポケットから宝箱を取り出した。


「ソファーをお願いします」


 ソファーに快適さを求めてしまった。


 手の平サイズの宝箱の蓋が開き、中から二人掛けのソファーが吐き出された。すげぇ。ちゃんと等身大だ。


 あの神様のことだからミニチュアでも出てくるのかと思っていたのに。


 しかも結構上等。黒張りの生地を押してみると柔らかく受け止め返してくれる。


 行儀悪くも足を投げ出してソファーに寝転ぶ。どうしよう? ベッドもういらないな。


 洞窟の天井を見上げて、そう言えば灯りが無いなと気付く。


 今はまだ昼間で光が差し込んでいるからいいけど、夜になったら問題だ。


 洞窟の入口もフリーパスで、まだまだ用意しなきゃいけないものは多い。


 早いところ揃えておこう。


 必要な物を。


「お菓子と炭酸飲料とクッション。高さが同じぐらいのテーブルに読みかけだったマンガとDVDプレイヤー、お願いします」


 宝箱の僅かな沈黙は注文の多さ故にだろう。ごめんね? 一気に言っちゃって。


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