第2話
「まずは……なんか食べたいな。食べ物、や、待った。コンビニ弁当がいいな。いつも食べてるやつ。えーと、緑のコンビニの海苔弁。……大丈夫かな?」
僕も僕の頭も。
変化は全く訪れなかった。
宝箱が光ったり、独りでに開いたり、中からコンビニの店員が現れたりすることもなく。
最後のは困るな? 早速無人じゃなくなるし。
とりあえず自力で宝箱を開けてみる。
箱の中は――真っ黒だった。
色として黒いわけではなく、夜の闇のような暗さを称えている。
こわ。なんこれ? 本当に大丈夫なん?
まだ日も高く直射日光がバリバリに差し込んでいるというのに、関係なく黒い。
飲み込まれそうな黒さを発する宝箱の中に、しかし手を突っ込んでみる。
お腹が空いているので。
ガッシリとした手応えが返ってきたのは意外と言っていいのかどうか。
引き抜いた手には注文通りの品が、わざわざ温められて付いてきた。
「お茶もよろしくお願いします。緑茶で、めちゃくちゃ苦くなかったらなんでもいいや」
声に出して希望する必要はないのだが、なんとなく口に出てしまう。
再び突っ込んだ手には、今度は冷えたペットボトルが付いてきた。こちらもよく飲む銘柄だ。
Cookieでも搭載してるんだろうか? 便利だな。
食事も勿論だけど、これでなんとか生活していけそう。
弁当のビニールを剥がしながら、ちゃんと付いてきた箸を割る。
「いただきます」
おお、食べられる。どうやら箱は正しく機能しているようだ。
これで原始人ルックで獲物を求めるというルートは無くなった。ほんと良かった。やってもやれなかったから。どうして無人島にしたのか。
海を望みながら食事する。
弁当の内容はありふれたもので、特別感を演出するものじゃないというのに、ちょっと美味しさがプラス。
わざわざ海に行ってまで肉を焼く人の気持ちが少しばかり分かった。大部分はやっぱり分かんないけど。面倒じゃないのかな?
唐揚げ、焼きそば、磯辺揚げ。味の濃いおかずを飲み下して食事を終了する。おかずなのに最後に食べる派だ。
お茶で喉の通りをよくしたら、一心地着けた。
なんとかやっていけそう。
満足感からか妙な自信が生まれる。きっと錯覚なんだろうけど、今は大事。
衣食住って言うぐらいだし、次は寝床の確保を始めよう。
日が沈む前に終わらせるのが定石。たぶん。
中天に達した太陽を思えば、時刻はお昼ぐらい。
まだまだ時間はある。
振り返れば森。
ジャングルというには険しさが足りず、その見通し具合からは森と呼んでも過言じゃないだろう。
なるほどね。
僕は宝箱に手の乗せた。
「じゃあ家を出してください。あまり大きくなくてもいいので、冷暖房完備兼水洗トイレ風呂付きのやつなら贅沢は言いません」
行くわけがない。無理無理。
自称神様の説明だと出てくるものは箱のサイズに左右されないという。なら家を出して貰おう。それで解決。
無人島は地理的な条件であって生活的に憧れがあるわけじゃないので。
「うわ」
また手を突っ込めばいいのかと宝箱を開けようとしたら、今度は宝箱が独りでに開いた。オート仕様搭載なのか。さすがに家は持てないからありがたい。
ペッ、と吐き出されたのは木材。
工事現場とかでよく見掛ける大きい角材だ。
ペッペッ、と続け様に吐き出された角材が砂浜に積み重なっていく。
出てくるのは角材だけじゃなく、生コンにノコギリ、大きい木製のハンマーに釘、と大凡家を建てるのに必要なものが――
「もういいです」
断続的に開き続ける宝箱の蓋を後ろから押さえた。
『作れ』ってことだな。
無理かな? 無理だな。
なるほど。
完成品が必ずしも出てくるわけじゃないようだ。
本来なら怒るところなのかもしれないけど、あの神様にしてこの宝箱ありとでも思えば納得もできる。
やっぱりなー。
何かしら欠点はあると思っていたので落ち込むようなこともない。
宝箱は蓋を押さえた瞬間に動きを止めた。こっちの意思は汲んでくれるらしい。宝箱自体は便利。
食糧が確保できるだけでも御の字かな?
積み上がった角材に腰掛けて森を見つめる。
「やっぱり行かなきゃダメかな?」
こういう時のお約束というやつだ。
砂浜に住むという選択肢はどうだろう? ダメかな? ダメだな。今こそ天気も良くて波も穏やかだが、天候によっては砂浜の荒れ具合も変わってくるだろうし。海が荒れたら死ぬんじゃないかな? 知らないけど。まあここには住めないよね。
「やっぱ行くしかないかー」
虫とか蛇とか平気だからいいけど。
まずは持っていく物を決めよう。
「水筒とか非常食……いや面倒だから宝箱を持っていこう。サイズ変えられるらしいし。戻ってくるの二度手間だし。あとは……一応、武器とか出して携帯しとこうかな?」
扱える下地は皆無ですが、持ってると安心できそう。
箱に手を当てて三度願う。
「なんか武器を」
箱が開いた。
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