第26話 眞也の独白

 玲愛とのデートで気付かされたこと。


 俺は彼女とデートをしていたつもりだったが、どうやら珠白と一緒に出かけている時の振る舞いと同じだったという。


 俺にとって珠白とはなんだろう、そんな問いを自分に問いかける。答えは妹としか返ってこない。


 だけど、公園で泣いている玲愛を見て、あの日の珠白の姿を思い出した。そして胸が跳ね上がるのを感じた。


 もしかして。俺は自分の中に生じた疑問を解消するために、珠白にデートのお誘いをした。承諾してもらい、やけに嬉しかったのを覚えている。


珠白とのデートは楽しかった。俺は珠白といる時が一番自然体でいられるのだと実感できる。どのようにリードすればいいかとか、デートにおいて悩むようなことも少なかった。


だけど、いま俺はどの立場にいるのか分からなくなる。デートなのだから、一人の男として、はたまた珠白の彼氏として? それとも、珠白のお兄ちゃん?


答えはその全てだった。矛盾した要素を孕む答えに、ますます意味がわからなくなった。


少し賭けだった。行っても何も意味がないこともある。けど、試してみたかった。デートの最後に、俺は珠白と初めて出会った公園へ、珠白と足を運んだ。


あの時のように一緒にベンチに座る。珠白の横顔を見て、やっぱり来てよかったなと思えた。自分の感情に気づけたように思える。


「実はな、お兄ちゃん、珠白に言わないといけないことがあるんだ」


正直怖かった。こんなことを言って、珠白に嫌われないだろうか。さっきからかなり迷惑をかけているなとも思った。


今まで自分に告白してくれた人たちも、こんな気分だったのだろうか。彼女らには申し訳ないが、この恐怖心にどこか興奮していた。もしかして、これが恋をするということなのだろうか。


そう考えると、何か腑に落ちるものがあった。そして思い出される記憶。


そうだ。俺はあの日、珠白に一目惚れしていたんだ。初恋だった。初めて出会ってから再会するまでの1年間、暇な時間があると珠白のことを思い出していた。


もちろん心配の要素もあった。あれだけ泣いていたのだ。彼女は立ち直ることができただろうか。もしまだ泣いているのなら、駆けつけなければと本気で思っていた。


そして親同士の再婚という形で再会した時、伊墨さんに言われた言葉。


「これから君が珠白のお兄ちゃんだ。よろしくね」


初めて大人の男性に頼られたからだろうか、それともあの日に彼女を守ると決意したのと目的が合致したからだろうか。俺はその日から珠白のお兄ちゃんになった。


珠白からあの日のことについて話をされることはなかったため、俺のことは忘れているものだと思っていた。でも、珠白は新しくできた兄に積極的に甘えてきてくれた。だから俺はそれに全力で答えた。珠白の立派なお兄ちゃんになるために。


すると、気づけば俺が抱いていた恋心はどこかに消えていた。いや、そこにあったのだ。だけど、俺がお兄ちゃんになるという気持ちで塗りつぶしたのだ。


こうして今まで押し潰されて隠されていた恋心の尻尾が、玲愛とのデートで見えてきた。そして珠白とのデートで、ついにその全体像を掴んだ。


だけど、それはもうあの時のものとは形が異なっていた。お兄ちゃんという立場がそれを長年押し潰し、見事にひしゃげていた。


だからこそ俺は珠白に告白した。その心の皺を伸ばしながら、形を思い出しながら、俺は気持ちを言葉にした。すると恋心が弾けて消えていったのを感じた。珠白への気持ちがなくなった? それは違うと思えた。


結局、その二つの心の目的は一致していたのだ。珠白を守りたい。ただ立場が違っていただけ。でも立場なんて関係ないのだと気付かされた。珠白を守りたいのであれば、どんな立場でも守ればいいだけなのだと。


こうして、埋もれていた恋愛感情が俺の中から発掘され、現在成長中だ。なんせ、小学生の頃で止まっていたからな。同年代のみんながしているような恋愛をするにはまだ時間がかかりそうだが、一歩前進、いやスタート地点にやっと立てた感じか。


告白後、珠白との関係は少しギクシャクしそうだった。だけど、過去の俺が抱いて今も抱き続けている願いを叶えるために、珠白のそばから離れる気は毛頭ない。彼女が許してくれる限り、一緒にいたいと思っている。


一応、事の顛末を玲愛に報告しておいた。「どんだけシスコンなんですか、先輩」と揶揄われた。


「今は妹ちゃんのこと、一人の女の子として好きじゃないってことですか?」


そう聞かれた時、少し答えに困ったが、やはり今の俺は珠白のお兄ちゃんだった。「あぁ」と短く返事をした。


恋愛と家族愛が入り混じり、迷子になっていた恋愛感情を見つけることができた。これから俺の生活はどう変わっていくのか。立派な青春を送ることができるのか。俺はくるかもしれない未来を想像して、胸が高鳴るのを感じるのだった。

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