第21話 後輩とデート
玲愛と一緒に適当にモール内をぶらつく。
手を繋いでいるため、俺たちは周りから恋人同士だと勘違いされているのだろうか、時折恨めしい目で見られる。
そんな目線など気にならないと言った様子の玲愛は、気になるものを見つけては手を引っ張るようにして店内に入っていく。
俺はそれに抵抗することなく店内に入り、玲愛の気になった物について一緒に感想を述べ合う。
「見てください、先輩。このパズル、3000ピースもあるみたいですよ」
「うわあ、完成するのに何時間かかるんだ? 俺こういうの苦手なんだよな……」
「私もです。なんか端から埋めていくのがいいとか、ピースを色で分けておいた方がいいとか聞きますけど、私はノリでやっちゃいます」
「あーわかる。これはここだっていう勢いのみだよな。まあ、そんな無計画だから勢いも萎んでいって、頓挫するんだろうけど」
「ふふっ。ですね!」
「わっ。なんですかこのお猿さんだらけの店」
「懐かしいな。子供の頃見てたアニメのキャラだ。そのポップアップストアみたいだな」
「え、私このキャラクター知りませんよ。アニメも見た記憶ありません」
「まじ? 毎週土曜の朝にやってただろ。なんで1年差でジェネレーションギャップ発生してんだよ」
「えー、知りませんよー。もしかして先輩、留年してるんですか?」
「してねえよ! ……でもこのアニメ好きだったなあ。この猿が可愛いんだ」
「あーたしかに可愛いですね。どこか先輩に似てて、ふふっ」
「俺がこいつと似てる……?」
「あ、新作が出てる。ちょっと見ていいですか、先輩」
「いいよ。もう夏服が出てるんだな。……これ、玲愛に似合うんじゃない?」
「それ、私も思ってました! なかなかセンスありますね、先輩」
「へいへい、そりゃどうも」
「照れないでくださいよー。じゃあ先輩、これとこれだったらどっちが似合うと思いますか?」
「んー……玲愛は大人っぽいから暗めのこっちも似合うし、可愛げもあるから明るいイメージを持つこっちも似合うだろうけど……このシックだけど明るい感じのこれはどうだ?」
「えっ……ずるいです、先輩」
「ずるいってなんだよ」
「私がいいと思ったやつを外した選択肢を出したのに、どうして正解を選ぶんですかっ。からかうチャンスだと思ったのに」
「どっちがずるだよ……」
とまあ、こういった感じで俺たちの時間を過ぎていった。
玲愛との買い物は意外と楽しかった。
というのも、玲愛の趣味やセンスが俺とマッチすることが多かったからだ。
玲愛はほとんどの店に対して気になるものを見つけ、それに食いついていった。俺もそれに興味を持ち、二人でそれについて語り合う。
これのループであったため、話題が尽きることはなく、話の内容も充実していたように思える。内容自体はしょうもないことではあるが。
「あっ……次はあそこに行きましょうよ、先輩」
そう言って玲愛が指差したのは、女子向けの水着専門店だった。
玲愛の表情はニヤニヤとしており、悪戯心が透けて見える。
ここで抵抗したらなんか負けた気がするなと思った俺が「いいよ」と承諾してみせると、玲愛は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにからかうような表情を浮かべる。
「もしかして、私の試着した水着姿が見れると期待していますか、先輩。残念ですけど、流石にそこまで見せることはできません。……でも、もし私のことを好きになってくれたら、水着姿、見せてあげてもいいですよ……?」
からかいの姿勢を見せていたはずの玲愛だったが、後半はなぜか顔を赤くし、声も尻すぼみになっていった。
そんな玲愛の様子を見て、少しドキッとした俺だったが、慌てるように言葉を返す。
「そんなこと言って、玲愛は釣った魚に餌あげるタイプじゃないだろ。それに俺が玲愛を好きになったとしても、付き合う気はないんだろ」
「……そうでした。でも、先輩を落とすために、ここまで私が尽くしているんです。それ相応の罰を与えないとダメじゃないですか。ねえ、先輩」
「なるほど。生殺しにするってことだな」
「そういうことです」
ふふんと笑う玲愛を見て、調子が戻ってきたなと安堵する。
そんな時、ぐぅという音が聞こえた。音の主を辿ると、俺のお腹あたりから鳴ったものだった。
「ふふっ。可愛いお腹ですね、先輩」
「うるせっ」
「でも、たしかにお腹空きましたね。どこかでご飯食べますか?」
「水着は見ていかなくていいのか?」
「はい。もともと先輩をからかう目的で言っただけだったのでっ」
「……はぁ。じゃあ、どこに食べに行こうか」
「自分が今食べたいものを、せーので言い合いませんか?」
玲愛の提案に「いいね」と承諾する。
そして、「せーの」という玲愛の掛け声に合わせて、俺たちは食べ物の名前を口にする——
「「パスタ!」」
声が綺麗に重なったことに驚いた俺たちは、しばらく見つめあったまま固まり、ふふっと吹き出したのを機に、二人で笑い合う。
どうも食事の好みまで一緒とは。
中原玲愛という人物と初めて話した時、俺はこいつとは相容れないだろうなと思っていた。
しかし、玲愛の策略の上ではあるが、今はこうして仲良くデートなるものをしている。
誰とどういった関係になるかは分からないものだなと思い、この先のことを少し期待している自分がいた。
* * * * *
「そういえば進捗具合はどうなんだ」
モール内のイタリアンレストランに入り、座った席に届いたパスタを食しながら俺は玲愛にそう聞いた。
玲愛はパスタ麺を巻き付けるフォークの動きを止め、ポカンとした表情を浮かべる。
「進捗ってなんのですか?」
「玲愛が進行中の、瑞波高校全男子生徒を惚れさせるっていうあれだよ」
「あー……それなら、あとは先輩のみですよ」
そう答えて、玲愛は食事を再開して上手にフォークに巻きつけたパスタ麺を口に入れる。
「俺以外はもう惚れたってことか? 前も聞いたけど、そもそも、そんなものわかるものなのか?」
「全員……と言っても、まあ大体ですよ。惚れられているかどうかを、そこまで本気で調べたりはしません」
その回答に少し違和感を覚えた。
玲愛は俺を落とすために、こうしてわざわざ休日に会ってデートなんてものをしている。そんな情熱がありながら、他の男子生徒が玲愛のことを好きになったか、そこの診断が適当なのだ。
もしかして玲愛は俺のことを……なんて考えたが、恋愛感情がない俺がそう言ったことを考えても無駄だと思い、思考を断ち切る。
玲愛はごくんと口の中のものを飲み込み、そしてフォークを皿の上に置き、ゆっくりと顔を上げて言う。
「私、これが終わったら、こんなこともうする気はないんです。……馬鹿なことをやっているという自覚はあるんです。先輩や他の方にもご迷惑をかけていますし。でも……」
玲愛は俯いてしまい、そのまま俺たちの間に沈黙が続く。
どうして始めたのか。そして、なんで今後はやめると言ったのか。
問いただしたい気持ちでいっぱいだったが、これをやっている理由を最初に聞いた時、もう理由については聞かないと決めたのだ。
俺は玲愛と同様にフォークを皿の上に置き、「じゃあ」と呟き、言葉を続ける。
「俺がラスボスってことだな」
そう言って笑ってみせると、俺の顔を見た玲愛が「ふふっ」と笑った。
さっきまで俺たちの周りを纏っていた重たい空気が晴れていく。
「ラスボスってなんですか、先輩。いつからそんな大物になったんですか〜?」
そう言って笑う玲愛を見て、俺は心底安心する。
そして、そんな彼女の笑顔をずっと見ていたいなと思っていた。
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