第20話 デートの待ち合わせ

 放課後、今日も玲愛と一緒に帰路についていると、玲愛が突然言い出した。


「今度の日曜日、私とデートしましょう。先輩」


 俺がそれに対して「いいよ」と即答すると、玲愛は頬を少し膨らませる。


「可愛い後輩からこんなお誘いを受けて、平然と答えるなんて先輩かわいくないですね」

「かわいくないって...どうすりゃいいのさ」

「それはもう、きょどりまくってください!」


 そうは言っても、こういった話に俺は耐性があるのだ。きょどってと言われても困る……というか、そんなお願いされることなんてこの先絶対ないぞ。


 これもおそらく恋愛感情がないことが原因だと考えられるため、玲愛には我慢してもらうしかない。


「それで、どこ行くんだ? 俺、デートなんて初めてだからよく分かんないぞ」

「あ、話逸らしましたね。もう。……でも、先輩の初デート奪えるなら、許してあげます」


 悪戯っぽく笑う玲愛を見て、少し可愛いなと思う。と同時に、俺がきょどって可愛いのか? という疑問を時間差で抱く。


「そうですね……行き先についてはまた後日連絡します」

「特に行きたいところはなかったの?」

「はい。先輩とデートに行くことが目的ですから」


 玲愛はそう言って、見事なウインクを見せる。


 俺はその言葉を受けて、なんだか嬉しくなっている自分に気づく。

 このデートは玲愛が俺を落とすための作戦の一つだろう。だが、玲愛のそういった言動に特に不快感を覚えることはない。これも、玲愛の魅力のなせる技なのだろうか。


 俺は「わかった」と返事をして、玲愛から視線を逸らして前を向く。目の前には駅が見え始め、玲愛との別れの時間が近づいているのを感じた。


「……日曜日、楽しみだな」


 思わず口から出たその言葉に自分自身が驚いていると、隣から視線を感じた。


 おそるおそるそちらを向くと、ニヤニヤした表情の玲愛が俺を見つめていた。


「可愛いですね、先輩」

「……うっせ」


 口元の緩みには気をつけようと誓った瞬間だった。





* * * * *





 デート当日。


 あの日の夜、玲愛からショッピングに行こうという提案のメッセージが来て、俺はそれを承諾した。

 そして今日、近くの栄えた街まで出てきた。


 さすが日曜日だ。街中は人でごった返しており、どこにいても人の声が耳に入ってくる。


 そういえば、珠白は今日は友達の家に遊びに行ったらしい。家を出るタイミングが一緒だったので、どこに行くのかと少ししつこく聞かれた。特に誰と行くのかと聞かれたが、友達とだけ答えておいた。珠白は納得がいかないといった顔をしていたが、電車の時間もあったので俺は話を切り上げるように家を出た。


 つい友達と答えたが、俺と玲愛はどういった関係なのだろうか。恋に落とす人とその相手といった感じだが、それじゃ玲愛が俺に片想いしているみたいで、なんだかなといった感じである。普通に先輩と後輩でいいか。


 そんなことを考えていると、駅の改札口から玲愛の姿が現れた。


 太腿まで丈がある白のロングセーターの上に黒のアウターを羽織っており、下はショートパンツを履いている。

 本当に高校生か? というくらい大人っぽい姿で現れた玲愛を見て、少しくらっとする。いつも見ている制服とはまた違った魅力だ。


 実際、玲愛が現れてから、多くの男性がそちらに視線を向けている。玲愛がモテることを再認識させられる。


 玲愛は少し周りを見渡した後、俺を見つけてパッと笑顔を浮かべた。そして俺の方に近づいてきたのだが、何故かだんだんその表情は険しくなっていく。


「おまたせしました、先輩」

「いや待ってないぞ」

「嘘ですね」

「……なんでそう思うんだ?」


 実際、俺は集合時間の30分前ぐらいにはここに着いていた。


「だって……先輩、ナンパされてるじゃないですか!」


「ねえ、誰この子ー? この子が待ち合わせの相手なわけー?」

「わぁ可愛い子。でも、お姉さんたちの方が色気はあるよっ」


 そう。さっきから俺の両隣には、セクシーな格好をした女子大生くらいのお姉さん方がいるのだ。「待ち合わせしてるので」と言ってもなかなか離れてくれないため、適当に返事しながら玲愛を待っていたのだ。


「あぁ、それでバレたのか」

「バレたのか、じゃないですよ。ほら行きますよ、先輩」


 俺の腕を掴んで、強引にその場から離れようとする玲愛。俺はその力に逆らわず、その場を後にする。


 後ろから「待ってよー」「連絡先でもー」といった声が聞こえてくるが、玲愛の歩みのスピードは止まらず、むしろ速くなっていく。


 しばらく歩いて、待ち合わせ場所が見えなくなったあたりで足を止めた玲愛は、俺の腕を掴んだままため息をついた。


「どうして先輩の方がナンパされているんですか。こういうのは、女の子の方が待っていて、しつこいナンパされているところを男が守るシーンじゃないんですか」

「うん。だから玲愛がナンパされるのは嫌だろうなと思って、先に来たんだけど」

「えっ……そ、そうなんですねぇ。へぇ〜……」


 玲愛は顔を赤くして俯き、脚をもじもじさせる。格好が格好であるため、少しエロいなと考えてしまう。……自分の性欲に嫌気が差してくる。


 とりあえず、この状況から抜け出したいと考え「それじゃあ、行こうか」と声をかける。


「あ、はい。そうですね。まずはモールに行きましょう、先輩。……ふふっ」


 玲愛は笑ったかと思うと、さっきまで掴んでいた俺の腕を離したかと思うと、今度は俺の手を掴んできた。そして、そのまま指を絡めて手を繋いできた。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。


 たしかにこれデートだ。まだ付き合ってはいないが、まあそういう目的で遊びに来ているのだ。俺も乗っかろうじゃないか。


 そう考え、俺も繋いでいる手を握り返し、モールに向かって歩き始めた。


「あっ……もう、先輩。やっぱりかわいくないです」


 そう言っていじけた顔をする玲愛は、少し可愛かった。

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