第18話 家族自慢タイム

【眞也視点】


 我が家は少々複雑な構成をしている。


 俺と、俺の母である摩安耶は血が繋がっている。

 そして、妹である珠白と父である伊墨も血が繋がっている。


 しかし、俺と珠白との間に同じ血は流れていない。


 それでも仲の良い家族だと言い切る自信はある。

 それも3人の人となりが良いからだろう。


 珠白に関しては言わずもがなだ。

 ホワイトに近いプラチナプロンドの髪を靡かせ、目鼻立ちがくっきりしており、庇護欲をそそるその低い身長の姿は、存在するだけで癒しを与えてくれる。


 家庭的な一面を持っており、家事のほとんどを手伝っている。なんなら担っている。現に、俺が学校に持っていって食べている弁当は珠白が作っているのだ。料理の腕も確かなもので、食べ残したことは一度もない。まあ、美味しくなくても食べ残すことなんてありえないのだが。


 学校で友達も多いみたいで、妹というフィルターを外しても性格がいいことがわかる。若干人見知りがあるみたいで、初対面の人と打ち解けるまで時間がかかるみたいだが、気がつけば仲良くなっている。


 母さんは自慢の母さんだ。

 まず、今の父さん……伊墨さんと再婚するまで、俺を女手一人で育ててくれた。周りの支援も多くあったと母さん自信は言うが、それだけではないはずだ。それに、その苦労を子供である俺に見せようとしない姿勢に尊敬の念を抱かずにはいられない。ちなみに、離婚の原因は知らない。


 それに気配りがすごい。普段は少しガサツな口調が目立つが、実際は周りをよく見ており、何か悩んでいる時には必ず優しく声をかけてくれる。テレビのチャンネルを変える際、誰もテレビを見ていなくても、必ず見ているかどうかを確認してくれる。そんな些細な気遣いを含めると、数え切れないエピソードがある。


 父さんは……元サッカー部らしく、ドリブルがうまい。





【珠白視点】


 わたしが小学2年生の頃にお母さんとお兄ちゃんができた。


 その1年前にわたしを産んでくれたお母さんが亡くなって、未だ絶望していた時だった。初め、新しいお母さんを受け入れることはできなくて、お母さん……摩安耶さんには迷惑をかけちゃったなって今では後悔している。


 でも、お兄ちゃんがいたから、わたしは摩安耶さんと親子になることができた。

 会った時からお兄ちゃんはお兄ちゃんだった。わたしをいつも気にしてくれているようで、常にそばにいてくれた。……わたしは寂しかったんだと思う。だから、お兄ちゃんから感じられるぬくもりが、とても気持ちよかった。


 そんなお兄ちゃんにわたしが懐くまでは早かった。そして、お兄ちゃんは摩安耶さんのことをいつも褒めていた。最初は少し嫉妬したけど、でも摩安耶さんはわたしのお母さんでもあるわけで、次第にそんな摩安耶さんに良い印象を持つようになっていた。そして気づけば、摩安耶さんをお母さんだと思えるようになっていた。


 お兄ちゃんはすごく優しい。学校のお友達も言っていたけど、すごくかっこいい。あの瑞波高校に入学できるくらい勉強もできる。わたしも来年は瑞波高校に通えるように必死に勉強しているけど、やっぱり壁を感じてしまう。でも、諦めたらダメだ。絶対にお兄ちゃんと同じ高校に通うんだ。お兄ちゃん、好き。


 お母さんはお兄ちゃんから聞いていた通り、すごく優しい!

 わたしがお友達と喧嘩して家に帰ってきた時、何も言わずケーキを作ってくれて食べさせてくれたことがある。それを食べて心が落ち着いてきたわたしに、優しく「何があったの?」って聞いてきてくれた。わたしが答えるまで、お母さんは何も言わないでずっと待ってくれていた。

 口調は乱暴だとお兄ちゃんは言っていたが、そんなところもお兄ちゃんに似ていてわたしは好きだ。


 それだけじゃない。仕事はパティシエさんをやっていて、料理がとっても上手。わたしの料理の師匠だ。将来についてまだ何も考えていないけど、料理に関する仕事もいいなって思わせてくれた、そんな人だ。


 お父さんはデリカシーがない。





【摩安耶視点】


 初め、この再婚がうまくいく自信はなかった。

 と言っても私から持ち掛け話ではあったのだが。


 でも、浅野家はうまくいっている。いや、前の時より断然に心地がいい。幸せだ。


 眞也は真っ直ぐ育ってくれた。

 勉強もできて、運動もできる。そして気遣いもできるときた。こんな自慢の息子が他にいるだろうか。


 眞也はよく私に「ありがとう」と言ってくれる。機会があればすかさずに言ってくる。同じ職場のお母さん方に聞いてみた、この年頃の息子は恥ずかしいのかなかなか感謝の言葉を述べないと憤っていた。眞也ばかり見ていた私には信じられなかった。それぐらい、この子が良い子に育ったってわけで、私は親冥利に尽きるなと感じている。


 珠白ちゃんはとても可愛い。私の自慢の娘だ。

 最初は、仕方がないことだが、私にはあまり懐かない様子だった。でも、気づけば私の隣にいてくれた。その時はとても嬉しかった。話を聞いたら、眞也がうまく言ってくれていたらしい。あいつ、どんだけ自慢の息子なんだ。


 珠白ちゃんは私を料理の師匠だと言う。そんな持ち上げられてもと思うが、娘と一緒に料理をすることは私の密かな夢だったので、今後もこの関係を維持していていきたいと思っている。しかし、珠白ちゃんは料理のセンスがあるみたいで、めきめき腕を上げており、いつか私が師匠を名乗れなくなる瞬間が来るのではないかと期待しつつ、この関係が終わるのは嫌だと震えている。


 伊墨さんには感謝してもしきれない。

 私たちの間に恋愛感情はない。偶然、私が働いている店にお客としてやってきた伊墨さんと出会い、何度か通ってくる内に、互いに一人親で子育てすることの苦難を共感し合った。そして、一緒に子育てしないかと私から提案した。


 私が伊墨さんを男として見ていないことは、本人もわかっていることだろう。それは、私の過去の話をしたこともあるし、鈍感でなければ私の目を見ればわかるだろう。それでも、伊墨さんは是非と言ってくれた。そして、今ではこんな幸せな家庭を築けている。


 本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。ただ、空気を読めないのだけはどうにかしてほしい。





【伊墨視点】


 眞也は俺に似てイケメンに育ったな! え、俺とは血が繋がってないだろって? そんなの関係ねえ! 人は環境で育つんだよ! 俺というナイスガイが近くにいたからこそ、あのイケメン眞也くんが誕生したってわけよ。


 珠白たん可愛いマジ天使。最近では、産みの母であるあいつの面影を見ることがたまにある。将来、世界一の美人さんに育つんだろうなあ……ん? 待てよ。そうなると、珠白たんに不届きな輩が集まってくるのでは!? ……許さん! 俺の珠白たんは誰にもやらねえ! ……あ、でも娘の彼氏を拒絶する父親はウザイってネット記事をこの前見たな……もしかして、珠白たんに嫌われる? うわあああああ嫌だあああああ、でもどこの馬の骨とも知らん奴が珠白たんを好き勝手するのもいやだあああああ! もう時を止めるしかないのか?


 ……摩安耶さんは、そうだな。感謝してる。

 多分、俺一人じゃ今の珠白の笑顔は見れなかったと思う。あの時の摩安耶さんの提案があったからこそ、この幸せがあるんだと俺は確信している。それと、摩安耶さんが俺のことを男として好きだと思ってくれていないのもわかっている。たまに申し訳なさそうな表情を浮かべている時があるが、そんな顔はしてほしくない。……俺は、生涯あいつのことを忘れることはできないんだろう。だから、正直その点も助かっている。


 とにかく、浅野家は今日も円満な家庭である。


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