第15話 恋人ってなんぞ

 翌日の昼休憩。今日も俺の声かけからあの議論が始まる。


「なあ、恋人ってなんだ」


 将生と徹は箸を止めて向き合い、また馬鹿なことを言ってるよと言いたげな感じで一斉にため息をつく。


「似たような話題、昨日も聞きましたよ」

「なんだ、やっぱりオレらの惚気話が聞きたかったのか?」

「なわけねえだろ。今回は恋人についてだ。お前らはあの子たちが好きだから付き合ってるんだよな?」


 俺の問いに対して、2人は当たり前だろと言わんばかりに勢いよく頷く。


「好きって友人や家族にも使うと思うんだが、恋人との違いってなんなんだ?」

「ばっかお前、それは……なんだろうなあ」

「眞也くん。好きとはそういうものではありませんよ。理屈ではないんです」

「徹はそればっかりだな!」


 恋愛感情持ちの人たちでも理解しきれていない恋という現象は一体なにものなんだ? それを俺が持てるようになる時があるのだろうか。気が思いやられる。


「例えば、だが……本人には恥ずかしくて言えないが、恋人は守ってやりたい存在だな」

「俺も珠白はお兄ちゃんとして守ってやりたい存在だぞ」

「僕にとっては、そうですね……一緒にいて気苦労しない存在、ですかね」

「珠白といるときが一番リラックスしてる気がするな」

「お前は妹が恋人なのか!」

「珠白は妹で家族だ! そんなわけあるか! 家族を守ってやりたい、落ち着くと思って何が悪いんだ!」

「眞也くんはシスコンを拗らせてますからね……はぁ」

「だな……はぁ」

 

 また一緒にため息をつく2人。仲がよろしいことで。


「あ、そうだ。眞也お前、もっと女友達作ってみろよ。そしたら異性に対する友情とは違うモノが見えてくるかもしれないし、その中に好きな人が出てくるかもしれないだろ」

「うーん、あまり女子と仲良くするのは気乗りしないんだよな。恋愛感情がわからない状態で告白されても困るし、相手にも申し訳ないだろ?」

「うわ、うっぜえこいつ」

「今、全男子を敵に回すような発言をしましたね」


 そう言われても、これが現時点で俺が取れる最善な振る舞いな気がするんだ。珠白のアドバイスもあるし。


「でも、影野さんとはよく話されてますよね」

「言ってたまにだぞ。それに話し始めても、すぐに会話が終了するし」

「不思議だよなー。影野、よく色んなやつと話してるところ見るけど、いつでもすごい盛り上げ上手だぞ?」

「俺の会話がド下手くそだと言いたいのか? それとも俺は沙樹に嫌われてるのか? ……泣きたい」

「そうは言ってねえよ」

「僕も不思議に思っていました。あと影野さん、僕と将生くんとはあまり話しませんよね。……今振り返ると、眞也くんと話をされる時って、僕たちがいない時じゃないですか?」


 徹の発言を受け、今までの記憶を振り返ってみる。すると、たしかに俺が沙樹と会話をするときは一対一ばかりなことに気づく。


「もしかして、嫌われているのはオレたちだったのか!?」

「知らぬが仏とはこのことだったんですね……」


 突然落ち込み始める2人を「そんなことないだろ」と慰める。なんで相談者の俺が慰めているんだろう。


 すると立ち直った将生(単純でよかった)が「あっ」と何かを思いだす。


「影野の不思議と言えば、急にあの派手髪になったよな」

「そういえば、昔は普通に黒髪でしたね。あれはいつだったでしょう、たしか……僕の記憶によると、去年のこのぐらいの時期でしたね」

「あーそういえばそうだった。登校したら俺の隣の席に金髪がいたからビックリしたの覚えてるわ。本当に突然だったよな」


 すでにあの金色には慣れてしまっていたため、沙樹と言えば金髪といったイメージが定着し、昔からそうだったと思い込んでしまっていた。


「それからまたしばらくして、インナーカラー入れて更に派手になったよな。……まさか、大人の階段を!?」

「夏休み明けにクラスメイトの仰天チェンジが発覚する傾向があるようですが、入学して1ヶ月後ですよ? まあ、ありえなくはないですが」

「そういえばうちの部活の奴らが、影野は軽そうだとかなんとか言ってたな」

「なんだそれ」


 眞也の発言内容を聞いて、少しイラッとした。自分でもなぜイラついたのかが分からず、少し理由を探り、続けて発言する。


「お前ら、あんだけ好きな人とそういうことはするべきだって前に語ってじゃないか。それがなんだ軽そうって。そこに愛はあるんか」

「いや、オレらはそう思ってるって! ……でも全員が全員そうじゃないってことだな」

「そうですね。まあ、僕はもちろん愛がある前提だと思ってますよ」

「……そうか。悪いな。俺もそう思うよ」


 2人に教えてもらった恋愛観とは異なることを言われて怒りが生じたんだと解釈した俺は、そうではなかったことが分かって安堵する。しかし、どこかまだ怒りが収まらない気もしている。


「それにしても派手な髪色ですよね。うちの校則において髪色は自由ですが、あれだけ派手だとまずいんじゃないかって当初は先生方が揉めていましたよ。まあ、彼女は成績が学年トップクラスで優秀なので許されたみたいですが」

「この学校において、成績や実績は教員に対する交渉権になるからなあ」


 2人はそのまま会話を続けているようだった。

 そんな中、俺はこの怒りがなんなのかを考え続けていた。

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