第14話 妹様はおこ?

 喫茶店を出てからアプリで電車の時間を調べると、7分後に次の電車が来ることがわかったため、駅まで急いで走った。

 5分程度で着くことができ、いかに本気で走ったかがわかるタイムだった。


 狙い通りの電車に乗り込み、息を整えたところでラインの返事を送る。


『今から帰るところ』


 なんとなく正直に理由を言うことが憚られたため、適当な理由を送っていた。

 するとすぐに既読がついた。


『何してたの?』


 更なる追及だった。

 嘘をつくときに肝心なのは事実を混ぜることだと聞いたことがある。それを取り入れた返事を考え送信する。


『学校の近くの喫茶店で、友人の相談に付き合ってたんだ』


 送った後に、そういえば俺と玲愛の関係性ってなんだろうと考える。知り合い? 友人? 同盟関係なんて言葉が脳裏をよぎったが、うまく言い表せている気がしなかった。


 これ以上の言及は苦しいなと思っていると、『そうなんだ』と簡単に引き下がってくれた。


 これで一件落着かと思ったが、なんとなくまだ急いだ方がいい気がしたため、電車から降りて家までの帰路も全力で走ったのだった。



* * * * *



「ただいま!」


 駆け込むようにドアを開けて家の中に入る。「おかえりー」と家の奥から母さんの声が聞こえてくるが、珠白の返事はない。


 靴を脱いでスリッパに履き替え、リビングに入ると母さんだけがいて、ソファでくつろいでいた。


「母さん、珠白は?」

「帰ってきてるわよ。二階にいるんじゃない?」


 2階か。まあ、おそらく自分の部屋にいるのだろう。

 特に用事はないが、ラインも来ていたことだし、帰ったことを報告しておいた方がいいだろう。


 リビングを出て階段を上がり、珠白の部屋に向かう。しかし、自分の部屋の前を過ぎるところで、ゴソゴソと音が聞こえた。

 この部屋の主は自分で誰もいないはずなのに。少しドキドキしながらドアノブに手をかけて、ゆっくりとドアを開く。


「あいつは帰ってきてない、みたい。可能性は、捨てきれない、のかな」 

 

 窓から外を観察しながら何かを呟いている珠白がそこにいた。具体的には、隣の部屋の窓を見ていた。カーテンが開いており、部屋の中がよく見える。久しぶりに見たなと心の中で呟く。


 そして奇妙なことに、ベッドの上にあった俺の掛け布団に包まっている。


「珠白」

「ひゃいっ!?」


 後ろから声をかけると、珠白は体をビクッと反応させて頓狂な声を上げる。そしてゆっくり振り向き、真っ赤にした顔を俺と対面させる。


「ただいま。今帰ったよ」

「お、おかえりっ。はやかったん、だね?」

「うん。珠白からラインが来て、ちょっと急いだからね」

「わ、わたしのため、ですかっ?」


 えへへと体をよじらせて喜ぶ珠白。そんな姿を見て、可愛いなと頬が緩むのを感じる。

 結果的に、急いで帰ったことは功を奏したらしい。


「ところで、こんなところで何してたの? なんで布団を?」

「えっ、あ、その……少し寒く、て。えへへ」


 たしかにまだ肌寒い時がある時期である。俺は少し暑く感じているが、おそらくこれは走って帰ってきたからであろう。

 しかし上着を着ればいいのにと思ったが、珠白がもう一つの質問について答え始めたので聞くタイミングを見失う。


「あと、お隣を見て、ました。……お兄ちゃんが、あの人と会ってるかもしれないと、思って」

「……あぁ。会ってないよ。さっきまで一緒にいたのは同じ学校の奴だよ」

「ほんと?」

「あぁ。あれ以来、一度も会ったことないな」


 そんな俺の返事に、珠白は「そ、そっか」と言ってほっと安堵し、笑顔になる。

 その様子を見て俺は付け加える。


「前に珠白が会わない方がいいって教えてくれただろ。俺そこらへん疎いからさ、珠白のアドバイス通りにしてるよ。それがあいつのためになるんだろうし」

「う、うん。そう、だね。えへへ……」


 もっと安心させようと思ってした発言だったが、珠白の笑顔に少し歪みが生じたように思えた。


 この辺の話題の扱いは、やはり俺にとっては難しいのだと痛感した瞬間だった。

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