第13話 矛について
先ほどまでの俺に対する質問タイムを通して俺を散々からかってきた中原は、満足気な表情を浮かべてオレンジジュースを楽しんでいる。
このままやられてばかりは納得できないと思い、俺は反撃に出る事にした。
「それじゃあ、今度は俺が中原に対して質問していいか?」
すると、中原は挑発的な笑みを浮かべた。
「先輩、私に興味あるんですか? もっと素直になってもいいんですよ」
今までの会話から、中原は俺に対して常に上を取ろうとする姿勢が見られる。今もそのスタンスを崩す気はないらしい。
俺はひとつため息をつく。
「中原が今後俺たちの仲を深めるためにって始めたことだろ」
中原は俺の発言を受けてもなお「そうでしたっけぇ」と笑みを崩さない。
「それで私の何が知りたいんですか? 先輩はむっつりなので、やっぱりスリーサイズですか? えっと、上からきゅうじゅ——」
「ば、バカ! 誰がそんなこと聞くか!」
焦る俺を見て中原は満足気な笑みを浮かべる。こいつ、どれだけ俺をからかえば気が済むんだ。
……90以上って、本当にでかいんだな……。
そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、これじゃ本当にむっつりだと
「中原は全男子生徒を惚れさせるって言ってたが、彼女持ちの奴らはどうするんだ? 奪い取るつもりなのか?」
「あぁ別に告白とかがゴールじゃないんで。私のことが好きな人って見たらなんとなく分かるので、それが確認できたらOKって感じですね」
「じゃあ何でさっき俺が中原に一目惚れしたんじゃないかとか冗談を——」
「言っている意味がよくわかりません」
そう言って笑みを浮かべる中原だが、どこかその笑みは怒気を孕んでいるような気がした。
この件についてこれ以上触れるのは藪蛇だと判断し、次の質問に移る。
「ところで中原は今まで誰かと付き合ったことあるのか?」
「ふふっ。先輩はどうだと思いますか?」
「うーん……まあ、あるんじゃないか? 昔からモテてきたんだろうし」
「なるほど。先輩は私のこと魅力的だと思ってくれているんですね」
「俺をからかわないと話ができないのか!」
「後輩の可愛いいたずら心じゃないですかぁ」
「はあ……それで、結局どうなんだ?」
「んー、ないですよ? 私、付き合いたいと思ったことがないんですよね」
意外な返答に俺の口から「マジか」と声が漏れる。それを聞いて中原はまたふふっ笑う。
待てよ、付き合いたいと思ったことがないってことはもしかして——
「中原も俺と同じで恋愛感情が——」
「いえ、それはあります。バカにしないでください」
違ったみたいだ。
てかバカにするなってなんだそれは! まるで俺がバカみたいじゃないか!
まあそんな怒りをぶつけたところで、どうせまたからかわれるのがオチなので、ここはぐっと堪えて次の質問に移ろうとする。
「……まあいいや。じゃあ、次の質問だが——」
その時、テーブルの上に置いていたスマフォからピロンという音が鳴り、加えてバイブレーションがテーブルに伝わって大きな音を出す。2人して少しびっくりする。
連絡が来たらすぐに気づけるようにテーブル上に置いていたのだ。画面に通知が表示されており、メッセージが来たことがわかる。俺は「ちょっとごめん」と断りを入れてから、届いたメッセージを確認する。
『どこにいるの?』
送り主は言わずもがなだった。そのメッセージに目を通した俺は、カバンの中から財布を取り出してすぐに帰りの支度をする。
「すまん、すぐに帰らないといけなくなった。代金ここに置いとくから、悪いけど会計よろしく頼む。余った分は取っていてくれ」
そう言って、テーブルの上に千円札を置いた。アイスカフェオレの代金に対しては少し足が出るが、急に切り上げることになった負い目の分だ。
「あ、ありがとうございます。ところで呼び出しですか? ……もしかして、女ですかぁ?」
「勝手に人のスマフォの画面見たな。女と言っても妹だよ」
「あぁ……さすがシスコンですね、先輩っ」
また中原は悪戯っぽく笑う。俺に対してその笑みしか見せてなくないか、こいつ。
それについて押し問答していても埒が明かないだろうし、時間がもったいない。ここはあえてスルーさせてもらう。
「それじゃあ悪いけどここで。またな」
「また会ってくれるんですね、先輩」
「じゃないとさっきまでの質問タイムの意味ないだろ」
「ふふっ。そうですね。……でも私はもっと先輩とお話がしたかったです。なので、その代わりなんですが、ひとつお願いしてもいいですか?」
時間が惜しい俺は「可能な範囲でなら」と適当に返す。
すると中原はニヤリと笑う。それは今日散々見てきた笑みだった。
「今度から私のこと玲愛って呼んでください。これも今後私との仲を深めるために必要で——」
「あぁ、いいぞ」
「へ?」
俺が即座に承諾してみせると、中原……玲愛は間の抜けた声を出した。
「先輩は異性を呼び捨てにするのに抵抗はないんですか?」
「あまりないな。自分から呼び始めることはないが、言われたらそうする」
実際、クラスメイトである沙樹からもそうするように頼まれてからはずっと沙樹呼びだしな。抵抗を感じたことはない。
玲愛は納得がいかないのか、少しいじけたような表情で「そうですか」と呟くようにいう。
結局、最後まで俺をからかいたかったんだろうなと思いながら、俺はその場を後にした。
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