第12話 盾について
「それでは、先輩についての質問タイムに入りましょうか」
中原はそう言って、おかわりのオレンジジュースを受け取る。
オレンジジュース好きだな。てか、今日のこの対談は先ほどので終わりではないことを悟り、俺は少し疲れを感じた。
「質問タイムってなんだよ」
「今後、私と先輩が仲良くやっていくために必要なことですよ。私にもっと先輩のことを教えてください」
なんかあざとい言い方だなと思っていると、ニヤニヤとした表情を浮かべているのを見て、わざとだなと確信する。
中原がチューッとジュースを一飲みする。それを見て、俺もカフェオレを一口含む。こうして、質問タイムが始まった。
「先輩って本当に恋愛感情がないんですか?」
「ないみたいだな。そもそも恋愛感情というものが分からないから、なんとも言えないところではあるが」
「たとえば、どういった時にそう思うんですか?」
「うーん……そうだなあ。告白される時、相手に『好き』と言われて、自分はどうだろうと思った時に思考にモヤがかかるというか、人間としての好き嫌いでしか区別できないなって思う時かな。あとは、友人カップルの惚気話を聞いていて、たまに良さが分からない時がある」
一連の質疑応答が終わり、中原は「なるほど……」と呟きながら情報を整理するように俯きながらうんうんと頷く。
そして情報の整理が終わったのか、顔を上げる。
「先輩は恋とかしたことないってことですよね。つまり、初恋はまだなんですか?」
「そうだな、おそらくしていないんじゃないか。……あ、でも、一眼見て可愛い! 守りたい! と思ったことはあった気がするな」
「それ一目惚れじゃないですか! あ、もしかして先輩、今まで照れて誤魔化してきただけで、私に一目惚れしていたんじゃないですかぁ?」
「いや、妹だが」
「へ?」
目を丸くして驚いた表情を見せる中原。それは次第に俺を見下すようなものに変わっていく。
「もしかして先輩シスコンですか?」
「いや、妹を愛しているだけだが」
「それをシスコンって言うんですよ」
「なんか昔から、妹のことは大事にしないといけない気がしてな」
「筋金入りなんですね。少し引きました」
なんで引く必要があるんだろう。家族愛は尊いはずなのに。
恋愛感情が分からない俺にとって、唯一理解できるのが家族愛だ。俺はそれを誇りに思っているが、恋愛感情を持つ者はどうも違うらしい。
中原は今度の答えの処理に時間がかかっているのか、ストローを咥えながらうーんと唸っている。そんな姿も映えてしまうのは凄いと素直に感心する。
ここは待つしかないだろうとカフェオレを口に流し込んでいく。氷が溶けて少し薄まってきた。
そうしていると、次の質問を思いついたのか中原は「あっ」と声を漏らす。
「ところで先輩、性欲はあるんですか?」
「ぶっ!」
思いがけない言葉が飛び込んできて、思わず口内のカフェオレを吹いてしまった。幸いコップに口をつけていたので、あまり外に散らすことはなかった。
「もう、汚いですよ」と中原はテーブル上にあるナプキンを取り、俺の口周りを拭いてくれる。
「中原が突然変なことを聞くからだろ!」
「でも大事なことですよ」
「確かにそうだが……」
「それで、どうなんですか? 馬鹿にしないので教えてください」
「……あるにはある」
「恋愛感情はないのに性欲はあるって
「めちゃくちゃボロクソに言うじゃないか!」
この事に関しては、去年、将生たちに同様の質問をされて答えた際に、恋愛感情なくしても性欲は抱くことができるという男の罪深さに気づき、3人で滝奉行でも行くかどうか真剣に悩んだほどだ。結局、馬鹿なことはよしなさいと将生と徹の彼女たちに止められたわけだが。
「あー、もう俺に対する質問タイムは終わりだ。またどんな質問が飛んでくるかわかったもんじゃない」
「すみませんって先輩。いじけないでくださいよ」
「うっせ」
「もう、わかりましたよ。質問は終わります。……代わりに、最後にひとついいですか?」
「終わってないじゃないか。……最後だぞ」
「はいっ。……先輩は、私に欲情してくれますかぁ?」
「なっ!?」
結局また碌でもない質問が飛んできた。
中原の顔を見ると、先ほど俺をからかってきたと同じ表情をしている。こいつ……。
俺が中原から目を逸らしながら「ノーコメントだ」と返すと、中原は更に目を細めてクスクスと笑うのだった。
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