第11話 今後の矛盾について

「それじゃ、今後の私たちについて話し合いましょ、先輩」


 そんな中原の発言の意味を考える。私たちについてというのは、"矛盾"についてということだろう。


 今日、俺と中原は別々で例の写真に関する噂を否定していたため、噂はある程度収束しつつあるらしい。それだけでは不十分なのだろうか。


「私、"矛"というあだ名、結構気に入ってるんです。あ、私が付けたわけじゃありませんよ」

「噂の流布元に心当たりは?」

「ないですねぇ。まあ、そこはどうでもいいと思ってるので」


 気に入ってるなんて言うから、てっきり自分で名付けたのかと思ったが、即否定された。俺は誰がこんなものを名付けて広めたのか気になるところだが。


「私、モテたいんですよ」

「現時点でモテてるじゃないか。入学1ヶ月で上の学年にまで名が知れてるってすごいぞ」

「言い方を間違えました。そうではなくて、うちの男子生徒全員を惚れさせたいんですよ」


 すごい事を言い出したな。それが俺の正直な感想だった。

 しかし、そう発言する彼女の表情から冗談であるとは思えなかった。


 彼女の目標をバカにする気にはなれなかった。しかし俺には到底理解できなかったため、つい聞いてしまう。


「なんでそんな目標を掲げてるんだ?」


 そんな俺の問いを受けて、中原は少し苦々しい表情を浮かべる。それを見て、俺はこの質問はするべきでなかったことを悟る。


「いや、やっぱりいいわ。変な質問して悪かった」

「……いえ、ありがとうございます」


 俺が勝手に質問したせいなのに、お礼を言われると調子が狂うなと頭を掻く。


「それで、その目標と俺になんの関係が?」

「え、関係大有りじゃないですか。悔しいですけど、先輩って私のこと好きではないんですよね?」

「ああ。……あぁ、そういうことか」


 無意識に瑞波高校の男子生徒から自分を除いていたが、俺も含まれているのか。そして俺は中原を好きになっていない(正しくはなることができない)。つまり、中原の目標は達成されないということか。


「やっと気づいんたですね。先輩は少し頭が悪いですね」

「おいおい、同じ高校の先輩だぞ。同レベル帯だろ」

「そういった勉強の良し悪しの話をしているんじゃないんですよ。そんな的外れなこと言うから、ほらねって思っちゃいますよ」


 中原は心底俺をバカにするような表情を浮かべ、手を口元に当ててくすくすと笑う。

 その仕草は少しあざといなと感じる。


「しかし、それだけ男を惚れさせて誰と付き合うんだ? まさか全員とは言わないよな?」

「全員ですよ」

「え!?」


 素っ頓狂な声を出して驚く俺を見て、中原の笑う目はさらに細くなる。その目は俺をおもちゃとして見ているように感じた。


「冗談ですよ」

「なんだ、冗談か」

「全員ってのは本当ですが」

「え、どっち!?」

「ふふ、先輩って面白いー。からかい甲斐がありますね。褒めてますよ?」

「嬉しくないわ! また冗談か?」

「いいえ、冗談じゃありませんよ。全員は全員でも、全員と付き合わないという意味です」

「……はぁ、なるほどなあ。しかし悪いなあ。惚れた奴ら可哀想すぎるだろ」

「先輩も告白を断りまくってると聞きましたけどー?」

「中原のは意図的だろ! 一緒にするな」


 わざと惚れさせて付き合う気もないなんて、こいつとんだ小悪魔だぞ。

 なんとなく危険な人物だなと認識を改める。君子、危うきに近寄らず。適切な距離を取りたいところだ。


 中原は残りのオレンジジュースを全て飲み干し、ふぅと一息ついて言い放つ。


「まあそう言うことですので、先輩には私に惚れてもらいたいと思います。というより惚れさせます」

「……はい?」

「そしたら先輩の恋愛がわからないなんて悩みも解決しますね。つまりWin-Winの関係ってことですね」

「え……?」

「なので——」


 「これから仲良くしましょうね、眞也先輩っ」


 その時の中原の笑顔はこれまで見た笑顔の中でとびきり一番可愛く、素敵で、そして……恐怖を感じた。


 珠白。お兄ちゃん、"危うき"に近寄られちゃった。逃げられないみたい。

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