第10話 待ち合わせ

 中原と連絡先を交換して別れた後、教室に戻ると一斉にクラスメイトが詰め寄ってきた。


「あれって"矛"だよね? 今流れてる噂って本当だったの!?」

「なんで呼び出されたんだ? 報復でもされたのか?」

「浅田くんとふたりっきりになるなんてずるい。ずるいずるいずるいずるいずるい」

「浅田っていつから"矛"と知り合ってんたんだ?」

「間近で見た"矛"どうだった? いい匂いした?」


「あの噂はでまかせで、そのことについて話し合っただけだ。ご飯食べさせてくれ〜」


 噂関連のことについては否定しつつ、他はあしらうようにして席に向かう。


 俺が屋上に行っている間に弁当を食べたらしい将生と徹が、俺の席の周りに座っていた。


「災難でしたね眞也さん。もう休憩時間ほとんどありませんよ」

「まったくだ。急いで食べなきゃな」

「オレが少し手伝ってやったぞ! 肉団子美味かった!」

「災難が増えてるんだが」

「蓮根のきんぴらも美味でしたよ。砂糖の分量が程よく、箸休めとしても主役としても担えるおかずでした」

「食レポなんて聞いてねえよ! 徹のことは信じてたのに……」


 少し軽くなった弁当箱の蓋を開け、急いで食事に入ると、「ねえ」と隣から声をかけられる。沙樹だ。


「それで、本当の何があったわけ?」

「昨日、傘を貸してやったんだ。そのお礼を受けて、お互いに自己紹介をしただけ」


 今回も例に漏れず、沙樹は俺の返答を聞いて「ふーん」と興味なさそうに相槌を打って、会話が終了する。


 沙樹との会話はいつもこうだ。あまり話が続いたことがない。過去の沙樹との会話を思い出しながら、箸を持つ手を早めるのであった。


* * * * *


 その日の放課後。

 俺は学校から駅に向かう反対側にある個人経営の喫茶店に来ていた。


 なぜなら中原に呼び出されたからである。あの後、昼休憩が終わる直前、放課後ここに来るように指示するメッセージが来た。これが俺たちのライン上の最初のやりとりかよと苦笑した。


 アイスカフェオレを頼み、メッセージが来ないかスマフォを確認しながら待っていると、中原が店に入ってきた。


 マスターとは見知った仲なのだろうか。「どうも」と軽く挨拶した後に、俺の座っている席までやってきて、対面側の席に座った。


「おまたせしました〜先輩」

「別にいいけど、今回は何用で?」

「まあまあ。ゆっくり話しましょうよ。マスター、オレンジジュースください」


 マスターは中原の注文を受け、こくりと頷いて提供の準備を始める。


「オレンジジュースなんてかわいいな」

「かわいいのは私自身じゃないんですか?」

「返しが強すぎる」


 ふふっと笑う中原に余裕を感じる。これが真にモテる奴の態度か。

 注文したオレンジジュースが届き、さされたストローを艶やかな口で咥え、少しだけ飲んだ中原は、先ほどとは違う笑みを浮かべて言う。


「それじゃ、今後の私たちについて話し合いましょ、先輩」

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