第8話 矛盾、決着
急いだ甲斐あって、始業のチャイムと同時に教室にたどり着くことができた。クラスメイトから「遅いぞー」と揶揄われながら自分の席まで向かう。
「浅野、チキンレースでもやってんの? マジぎりぎりじゃん」
揶揄うように笑う沙樹に「やってねえよ」と適当に返す。
「じゃあなんで遅れたん? いつも遅いけど、5分前とかだいたい決まった時間だったじゃん」
「ちょっと想定外のトラブルに遭ったんだよ」
「ふーん」
そこで興味を失ったのか、沙樹は視線を自分の手元にあるスマフォに向ける。何も話す気配がないことから、話はここで終了のようだ。
それにしてもアレはなんだったのだろうか。彼女とは結局逃げるように話を終えてしまったが、あれで見返りとやらは解消されたと思いたい。
チャイムからしばらくして、担任が教室に入ってきたため、思考をやめてHRの話を聞くことにした。
* * * * *
4時間目の授業が終わり、待ちに待った昼休憩がやってきた。
しかし、これまでの休憩時間で少し気になることがあった。隣で沙樹が「なるほどね」と呟いた時から、休憩時間を重ねるごとに盛り上がるクラスメイト間のトークと、チラチラとこちらを見る視線である。現に、今もこちらを見ているクラスメイトが複数いるが、皆揃ってスマフォを手にしている。
よく分からないが、とりあえず空腹を満たしたい。俺が弁当箱を取り出していると、将生と徹が飛んできた。
「おい、眞也! お前”矛”と何があったんだ!」
こちらに来て早々、将生がそんなことを聞いてくる。2人の手には弁当箱がない。
「な、なんのことだよ。てか弁当は?」
「そんなことは後回しだ! 今は”矛”のことだよ!」
「”矛”? ”矛”って昨日言ってた瑞波の”矛”ってやつか?」
「えぇ。僕たちは先ほど知ったのですが、今学校中はその話題で持ちきりです。”盾”が”矛”に勝ったと」
「……へ?」
昨日話していたことを踏まえると、”矛”とはうちのモテモテ1年生で、”盾”は俺である。つまり、俺が”矛”に勝ったってことか……?
しかし、俺には全くもって心当たりがなかった。
「すまん、要領が掴めない」
「コレですよ」
そう言って徹がスマフォで見せてくれたのは、俺が校舎に向かって走る後ろ姿と少し涙目の女子高生が映った校門での写真だった。どうも(俺は入っていない)ラインの学校全体グループに貼られているみたいだ。
「なんで今朝の写真があんだよ。てかこれ盗撮じゃねえか! 教えはどうなってんだよ教えは」
「今、この写真がある文言と共に出回っているんですよ。ほら」
徹が画面をスクロールしてみせると、そこにはタイトルと内容のような文章が記述されていた。
【速報!】瑞波の”矛盾”、勝敗を決す
今朝、”盾”は”矛”からのアプローチを突っぱねるように拒否したという情報が入ってきた。詳細は分かり次第追記するが、今日、遂に”矛盾”に決着がついたことになる。
この写真と”矛盾”の表記。この二つが示すことといえばつまり……
「もしかして、この子が”矛”——」
その時、教室のドアがガラッと勢いよく開けられた。皆が一斉にそちらの方を振り向く。俺も例に漏れず、音に反応してそちらを見た。
そこには、俺が指差している写真の子がいた。”矛”だ。
「浅田先輩。ちょっとお時間、いただいてもいいですか?」
その顔の表情はとても穏やかとはいえなかったが、綺麗だなと場違いな感想を俺は抱いていた。
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