第1話 これを青春と言えるのか

 公立 瑞波みずなみ高等学校。毎年難関大学に学年の2〜3割程度排出する進学校。最寄駅から徒歩10分、髪型は自由、あとはブレザーの制服デザインの評判は良く、地元では人気の高校である。


 そこに通い始めて2年になる俺、浅野あさの眞也しんやは今日もいつも通り始業チャイム5分前に教室に着く。すると、既に登校していたクラスメイトが声をかけてくる。


「おっす浅野。聞いてくれよ! 昨日ガチャ引いたらSSRが出たんだ!」

「おはよ。なんだよ自慢かー? 今度俺のも引いてみてくれよ」

「おう!」


「おはよう、浅野くん。この前オススメしてくれたマンガ、面白かったよ! 一気見しちゃったよ〜」

「おはよ。あれ傑作だろ〜」


 クラスメイトと短い会話をしながら、自分の席にたどり着く。自分の座席は窓際の中間位置にあり、その隣の席には金髪が目立つ女子が座っている。


「おはよ沙樹さき

「おはー。浅野またギリギリね」

「沙樹はギャルの割には早めだよな」

「それ偏見ー。アタシはほら、真面目系ギャルだから」

「なんだよそれ」


 彼女は影野かげの沙樹。腰まで伸びる綺麗な金色に赤のインナーカラーを加えた髪を靡かせた自他共に認めるギャルであり、俺とは高校1年生から同じクラスの仲である。加えて、よく隣の席になるため、こうしてたまに話すがそれ以上の関係ではない。見た目に反して優等生で、学年上位の成績を誇るらしい。そのため、彼女の言う真面目系ギャルもあながち間違っていないのかもしれない。そもそもそんな言葉はないが。


 沙樹と呼ぶ理由は、沙樹自身にそうお願いされたからだ。どうも影野という名前があまり好きではないらしい。本人曰く、可愛くないからだとか。


「ようよう、やっと来たか。朝練があったオレより登校が遅いとはなー」

「全くですよ。僕が記憶する限り、今年度始まってからずっとですよ」

「ふっ、舐めるな。入学してから毎日この時間だ」


 俺の姿を見つけて近づいてきた男2人。1人は近藤こんどう将生まさき。野球部の次期エースと噂される、坊主が似合うマッチョマンである。もう1人は羽田はねだとおる。全国模試の成績上位者に名を連ねる、眼鏡が似合う秀才である。2人とも高校1年生からの付き合いで、沙樹とは違ってプライベートで遊ぶこともある友人である。


「誇れることかよ。もっと早く来れないのか?」

「そうですよ。もっと僕たちとの時間を作ってくださいよ」

「理由がちょっとキモくないか」


 2人の発言に対して、うげえとした表情を見せてやる。ただこんな発言をしているが、2人にその気はないことはわかっている。なんせ、2人とも彼女持ちなのだから。


「キモかないわ! ……そういえば、眞也。お前のこと、既に1年生に知れ渡ってたぞ」

「へ? 俺のことが? なんでさ」

「お前は見てくれはいいからな〜。入学して早々、そういった情報が1年生の中で回ったらしいぞ」

「僕も聞いています。その情報の後に、あなたのアレが知れ渡るまでは早かったみたいですよ」

「まあ新たな被害が生まれる前に知れ渡った方がよかったかもな。まだ5月だし」

「そうですね。被害予防は重要です」


 2人の話す内容に、俺はついていけなかった。自分自身のことのはずなのだが。


「なあ、いったい俺は何で有名になってんだ?」


 そんな俺の問いに、2人は呆れたような口調で言う。


「恋愛できないこと」

「恋愛できないことですよ」


 その答えを聞き、俺は頭を抱えることとなった。俺だって恋愛はしたいのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る