恋愛感情を置き忘れてきた俺は青春を謳歌できるのか

土車 甫

プロローグ

 恋愛とは、この世で最も尊いものの一つではないだろうか。


 流行りの曲も長年愛されている名曲も、大体が恋愛ソングである。

 小説やドラマにおいても、恋愛モノは常に新しいものが出てきては愛されている。


 例えば、人生で一番輝かしい時は学生時代であるという意見がある。

 学生時代、勉強や友人との交流など多くのイベントがある中、やはり恋愛は一際ビッグイベントとして扱われている。青春に恋愛は不可欠であるという声もある。


「あ、あのね……」


 そんなビッグイベントが俺の目の前でも起きていた。場所は通い始めて3年目の中学校の体育館裏。放課後、正面に立っている少女からの呼び出しを受けてここに来た。


「わ、私、実はね」


 彼女は耳まで赤くした顔を俯かせ、チラチラとこちらを見ながら言葉を絞り出している。ぎゅっと握られている左拳の力は、拳の中にあるスカートの歪み具合から想像ができる。手持ち無沙汰な右手は髪をいじったり、胸の位置に移動したりと忙しい。


「あなたのことが——」


 遂に覚悟を決めたような表情をする彼女は、顔を上げてこちらの目をしっかりと見る。その目には薄らと涙が浮かんでいた。


「——好きです! 私と、付き合ってください!」


 彼女の必死の告白を受けて、俺は少したじろぐ。シチュエーション的に想像できていた言葉ではあったが、いざ実際に告白されると衝撃を回避することはできなかった。


 彼女とは家も近く、現在のクラスは同じで、プライベートで遊びに行くような関係であった。友人から揶揄われたりもしたことがある。そんな関係。


 俺が答えずに逡巡していると、彼女は不安になったのか目に浮かぶ涙が増えていく。焦らしても仕方がないと、俺も意を決して彼女の気持ちに答える。


 彼女といる時間は楽しかった。彼女の笑顔は可愛らしく、ひまわりのようだと思うこともあった。輪に入ることができずに困っている人がいれば、積極的に声をかけるような優しさを尊敬していた。けど——


「——ごめん」


 俺には、彼女に深い友情を感じていたが、それ以上のモノ——恋愛感情を抱いていなかった。いや、抱くことができなかった。


 だって、俺には恋愛感情というものがよく分からなかったから。……いや、今も、分からない。

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