第45話 sweet coffee 〜陽菜〜
先輩はやっぱりカッコいい!
一つひとつの仕草が大人っぽいし、ちょっとした動きでも私のことを見ていてくれるのが伝わってくる。
席だって、当たり前みたいに眺めの良い席を私に座らせて、露のつきやすいコールドドリンク用に、さりげなく紙ナプキンをテーブルに載せてくれてる。
カロリーの高い、クリームたっぷりのコールドドリンク。あっという間に水滴が表面についてきます。
わっ、これ、成り行きで頼んじゃいましたけど、可愛く「食べる」の難しいかも。
クリームからすくって食べるしか無さそうですけど、ホッペに着けて「ヒナ、こんなところにつけてるよ、ペロ」とかないですかね? ないですよね。いつか、そんなこともしてもらえるように、頑張らないとです。
それにしても、先輩はやっぱりスゴいです。話題が広くて豊富。それに、私が話したいことを話題にしようとしてくれます。
なんて、大人!
こういう人がいると、やっぱり同級生だと物足りなくなっちゃいますね。
あ〜
今まで、告白を断っておいて良かった〜
実は私もけっこうモテるんです。告白されたことだって、3回もあります。はい。元から薄い胸部装甲ですけど、2年生になって少しだけ厚みが出たら、出るわ出るわの告白祭。今年になってから3回 も ですからね!
でも、先輩を見ちゃってる私にとって、ぜんぜんお子ちゃまな人達だったから、まったくその気になれませんでした。即刻「ごめんなさい」です。
そして、私は気になる「将来」のことを聞き出します。ちなみに先輩が理系クラスなのは知ってます。
「先輩は、進路、どうされるんですか?」
「そうだなぁ。とりあえず、都内の国公立の医療系を扱う工学部に進もうかなぁってね。医学部は無理だけどさ。人工関節を研究してるところに入れるといいなって思ってるよ」
先輩は、大学の名前どころか、研究室の名前も研究内容もスラスラと教えてくれる。しかも、直接メールを入れて大学の先生とやりとりまでしてるんだって!
わ〜 無茶苦茶具体的でした。でも、数学が天敵の私にはついて行けない未来です。
「先輩って、なんでそんなに大人なんですか?」
「いや、陽菜ちゃんが思うほど大人なんかじゃないよ」
「あ~ また、ちゃんをつけてる」
「いや、それはつけるでしょ」
「今は、デートですから、陽菜って」
ここは一回押してもいいですよね? 困ってるけど、こんなことでは怒らないはずだもん。
「はい、先輩、もう一度?」
ふふふ。先輩、困ってる、可愛い~
胸がときめいちゃいます。
「お、ね、が、い」
「あ、え~っと、よく考えてからにさせてくれ」
「そんなぁ。考えなくても、本人が望んでるんですからぁ。考えるまでもなく正解ですよ?」
ニコッ。
やった、こないだから必死に練習してきた上目遣い笑顔が見せられた!
あれ? ウソ! 先輩、なんでそんなに哀しい顔をするの? 私、何か間違えた?
「あのね、正解だって思ってパッと行動すると、ロクなことにならないってことを昔学んだんだよ」
「先輩がですか? 信じられないです。だって、先輩はいつだって、何でもよく考えてるじゃないですか」
「考えないで行動すると、本当に悲惨だったりするからね」
私が何かを言う前に、先輩は、まるで空中に言うみたいに「考えて行動したはずなのに、間違ってるかもしれないって思ったら、もっと悲惨だけどさ」と言った。
言葉の意味はわからないけど、顔を見ていたらピーンときました。
「天音先輩と何かありました?」
恋する乙女の直感です。
先輩は、ゆっくりと視線を外に向けて一つため息をつきます。カッコいい!
「別れてきた。昨日」
やった! これ、世紀の大チャンスじゃないですか! あんな女と別れただけなのに、それでも哀しげにため息をつくなんて、先輩、本当に優しすぎです。
私の身体で慰めてあげた方が良いんでしょうか? あ、お兄ちゃんからのお金、バッグの底に入ったままだ。後で、お財布に入れ替えておかないと。
おっと、私も何かを言わないとですよね。えっと、えっと、え~っと。
「ねぇ、陽菜」
「はい!」
わっ! やった! 名前呼び!
「さっき、良い笑顔を見せてくれたね?」
あれ? 先輩の微妙な顔。さっきのあざとく作った可愛い笑顔がバレてます?
「あの笑顔って、自分に嫌いな人にも見せられる? あ、嫌いって言うか、そうだなぁ、無関心な相手にっていうか……」
あ、これ「返事はいらない」パターンですね。
いいですよぉ。先輩が何を言いたいのかよくわからないけど、前カノと別れた直後の傷心をわかる「可愛い彼女」になってあげようじゃないですか!
ヒナは先輩のことだけを思ってますからね!
ここは「ズバリ」と言っちゃうのが正解ですよね。
「ひょっとしたら天音先輩の話ですか?」
「あ、ご、ごめん!」
「いいんです。でも一つ、わかってほしいんです」
「?」
「ヒナだったら、心からの笑顔を見せるのは先輩だけですから」
わ~ 言っちゃった! 言っちゃいましたよ!
「今みたいに先輩が『ヒナ』って呼んでくれるだけで、心からの笑顔をいくらでも見せちゃいますよ」
なんだったら、誰にも見せたことのない柔肌もお見せしちゃいますからね!
あれ? この反応。
今の「ヒナ」呼び、先輩気付いてなかったんだ? ってことは、ワンチャン、脈アリですか?
よし、予定変更。
処女のニオイを無くしたお姉ちゃんから授けられたやり方で、一気にたたみかけてしまいましょう。
ドリンクについたたくさんの水滴。
プラカップの横に「スキ」って書いてみます。カタカナだから、何とか読めますよね?
先輩がちゃんと私の手元を観察してるのは知ってます。さすが先輩。こんな時にスマホなんか出さずに、デート相手に全力集中してくれてます。すきっ。
さりげなく、でもあざとく「スキ」を先輩の前に差し出しました。
「先輩、どうですか?」
わっ、効果てきめん。先輩がキョドってる!
「ふふふ、いかがですか?」
めったに見られない表情を見られただけでも、今日のデートは100点です。たとえ、今の先輩の目に私が映っていなくても、これなら、いつか振り向いてくれるはず。
だって、好きになれない相手だったら、先輩は絶対に、こんな表情なんてしない。むしろ、冷静に、そして優しい表情になって「ごめん」って返事をする人だ。
先輩は私を拒否しなかった。良かった。
それだけでも今は良いの。
え?
先輩、カップを受け取ってくれた。指、触れちゃったよ!
え? え? え?
ホントに味見してくれた!
ヤバい、ヤバい、ヤバい
お姉ちゃん! 私どうしたらいいの? これってOKってことだよね! だって「スキ」のカップを受け取って、文字を指でなぞってから、一口だもん。
先輩の目が真剣に私を見つめて来た。
こんなの予定にありません。先輩をワタワタさせて、可愛く微笑む予定だったのに、私がワタワタしちゃいます。
ダメ、これ倒れちゃいそう。
先輩がチラッと自分のコーヒーを見ました。こ、これは!
来い! 来い! 私の春よ、来い!
「陽菜も味見してみる? ブラックだけど」
来たぁああ!
ノドがグビッと鳴らないようにするのがやっとでした。
「いただきます」
ニガイ? ないないない。絶対ない! 甘いです! 極甘!
ファースト間接キス!
「苦いだろ?」
「いえ、全然」
私はお澄まししてみせます。今日はやられっぱなしですけど、何ならいっつもやられっぱなしでいーんですけど、十六歳のすべてをかけて勝負です。
「先輩」
「なんだい?」
「次は直接がいいな」
ニコッとしながら自分の唇に指をつけて見せます。
ふふ。やっと先輩がワタワタしてくれました マル!
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